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2022.02.07
母校の学生と語る

これからの建築・都市の在り方とこれからの建築の仕事

日本設計代表取締役社長 篠﨑淳(写真中央)が自身の出身校である早稲田大学大学院の冨澤 佑介さん(写真左)、上原 のぞみさん(写真右)からインタビューを受けました。「これからの建築・都市の在り方とこれからの建築の仕事」をテーマに、コロナ禍での働き方やコミュニケーション、建設業界の展望、脱炭素化に向けての取り組みなどについて語ったインタビューレポートです。

 

新型コロナウィルス感染症の流行を経て

冨澤 新型コロナウィルス感染症の流行を経て、約1年半が経ちました。就業形態やコミュニケーションの取り方など、働き方で新しく定着したこと、コロナ禍以前と変わらないことはありますか。

篠﨑 日本設計は1回目の緊急事態宣言のときに完全在宅勤務を実施しました。それ以前からTeamsなどを活用して在宅勤務を試行していたことや、現地法人のある上海での在宅勤務が先行していたこともあり、すぐに切り替えることができました。在宅勤務はできると実感したものの、一方で難しいという点もあります。リアルなコミュニケーションが熟成したチームなどは対面からオンラインへの移行がスムーズですが、プロジェクトの始まりや新入社員の方など、新たな関係性を築くときにはオンラインは向いていないと感じました。
働き方については、日本の労働に関する法令は場所を規定するものですが、制約が外れると時間も柔軟に使えるようになります。今まで、子育て世代は時短勤務を選択せざるを得なかったのですが、働く場所や時間をずらすことにより柔軟な働き方ができるようになります。今、私たちは働くルール、オフィスの在り方、デジタル活用を一緒に検討しルール化しようとしています。

冨澤 コロナ禍が始まったころは、学部4年生で研究室に配属されるときでした。研究室に新しく所属する立場としては慣れるまで難しさがありました。3年生までの学びと研究室での学びや姿勢が異なるため、環境が一気に変化した経験でした。

上原 新しくオンラインで関わった方からの批評は批判に変わりやすいと感じます。対面であれば学びにつながったものが、オンラインであるため批判と捉えがちで、オンラインコミュニケーションの難しさを感じました。

篠﨑 確かにそうですね。社内のレビューなどにおいて、対面であればアドバイスとなるのにオンラインだと貶している雰囲気になります。顔が見えないためコメントが難しいと感じています。

冨澤 これまで、私たちはスペイン風邪や新型インフルエンザなど、感染症の大規模な流行を幾度も経験してきました。都市の過密化が感染症流行の一因であることを理解しながらも、人的・物的資源が都市へ集中してきました。都市は今後どのように変化していくと考えていますか。

篠﨑 ヨーロッパの中世期、城郭都市の中でも感染症は多発していましたが、都市化は加速してきました。オスマンのパリ改造のように都市改造の原動力になった感染症はありましたが、そこに都市化を停滞させる要素はあまりなかったと思います。
新型コロナウィルスが流行り始めのころ、東京集中の問題性や地方分散がフォーカスされました。これまでの都市の歴史から、感染症の流行は都市構造に対しての新たなアイデアを求めていると思いますが、都市化を止めるモチベーションにはならないのではと思います。コロナ禍より街歩きを始めましたが、2021年9月末の緊急事態解除以降のまちは賑わいがあり活気があり、その空間に求めるものが合っているのではと感じました。都市化を支えていたものは人間の情熱や欲望であると思いました。ここを正確に捉え、分散による単なる低密度化ではなく、新たな代替案を考えていきたいと思います。

上原 私は東京出身ですが博物館、図書館などが身近にあり、地方出身の友達からは恵まれた環境と言われます。ネットショッピングなど地方でも都市と同じように購買は可能ですが、実際に物がたくさん並んでいる状態にも魅力があるのではないでしょうか。

篠﨑 そうですね、コロナ禍で物の力を再認識しました。また人が集まること自体も魅力なのではと思います。これまで物質は魅力になりうる、人が集まることも価値となりうる、そしてそれは魅力的な空間となると発信し続けてきました。コロナ禍でまちに人がいなくなった状態を経験し、その後まちに人が戻り活気がある様子を見てとても魅力的に思えました。これがどのくらいの人に共感を得られるかによって都市を作るうえでの大きな力となると思います。
働く場所は選択肢が増えた今、建築や都市の根源的な価値が問われている時期だと思います。今後どのように変化していくかはみなさんと語り合いたいと思います。

 

建設業界全体の変化と展望

冨澤 数ヶ月前の東京五輪や2025年の大阪万博は、建設業界にとっても一大イベントと言えます。それらの国際的なイベントが建設業界へ与えた影響はどのようなものであったと考えていますか。感染症とは別の視点で伺いたいです。

篠﨑 東京五輪を例に都市建築という観点でお話します。今回五輪施設が多数建設されましたが、五輪を招致したから都市における建設が活発化したとは見ない方がよいと思います。1回目の五輪の時は戦後復興がピークを迎え都市インフラから建築まで一気に整備されました。かつて東京駅前などの街並みが江戸期の風情を残して情緒がありましたが、それが戦争でなくなりました。戦後、自動車などのモビリティに合わせて都市構造の変革が必要となり、当時はインフラごとの最適解で都市をつくっていました。今は当時つくられたさまざまなものが老朽化し東京の都市基盤は危機に面しています。国の財力だけでなく民間の力も借りて再生していく必要があり、今回の五輪はその後押しとなっていました。今後も都市部の再生の必要性はまだまだあり、インフラ更新に伴う都市再生は継続していくのではないでしょうか。

 

脱炭素社会の実現に向けて

冨澤 今建設業界にとどまらず、社会全体が脱炭素社会の実現を掲げて活動しています。オリンピックや万博は短スパンのイベントですが、それに対し2050年の脱炭素社会の実現という長期的な目標に向けて、どのような姿勢で建築・都市を計画されるのでしょうか。

篠﨑 脱炭素は社会構造の変化、つまり産業構造や技術の変革といった、炭素化したときと同じだけの領域の技術改革におよぶべきと思います。「エネルギー消費量は約3割が業務部門・家庭部門」と言われています。日本設計の携わる都市部の住宅やオフィスビルなどの建設に関わるCO₂の削減は全体の一部ではあります。
2050年のカーボンニュートラルはかなり大きな構造改革が必要であると捉え、設計事務所、建設する側、それぞれ得意不得意があると思いますが、地域冷暖房や木質化などにおいて、競争ではなく非競争領域として取り組む必要があるのではと感じます。これを機会に建設や都市の環境分野においてオープンソース化して取り組まないとカーボンニュートラルは達成していないと思います。

 


冨澤
 新築においては、高効率化・省エネ化するのは当然のこととなりつつあります。新築のZEB化はもちろんのこと既に建っているビルの運営を丁寧にしていくことも、脱炭素化だけでなくこれからの未来のためには重要なのではと考えています。運用やメンテナンスよりも建設、計画に重点を置いてきたことの反動がきているのではと感じています。

篠﨑 そうですね。新築のZEB化はある程度見えていて、コストをかければ可能とも言えます。ストック活用と運用の最適化については、例えば「新宿三井ビルディング」など1974年の竣工以来リニューアルに関わり続け、時代ごとのニーズに合わせて最適化しています。また、エネルギー消費についてコミッショニングにも取り組んでおり、「赤坂インターシティAIR」においては地域冷暖房も含めた運用のモニタリングを実施しています。エネルギー消費削減には機械の性能や技術だけでなく、使われ方の影響が大きいため、特に大型建築においては運用に入り込んだ最適化を提案しています。
また、人の感覚にも注目しています。戦後の均質空調空間はあまり快適ではないという認識が広がりつつあります。温熱環境のムラを人の感覚による「快適さ」に置き換える計画方法を試みています。環境に働きかけるという点では、「関東学院大学金沢八景キャンパス 5号館(建築・環境棟)」という事例があります。マルチモードダブルスキンとよばれ、学生が季節により体感に合わせてダブルスキンを実際に開け閉めし、学生が自ら環境に働きかける建築です。性能だけを追求するのではなく、物と人の感性や体感を含めて省エネ建築に取り組むことが重要です。

関東学院大学金沢八景キャンパス 5号館(建築・環境棟)撮影: 鳥村鋼一
ダブルスキンと可動水平ルーバーにより構成される南側ファサード(左:中間期における自然換気モード、右:夏期における熱除去モード)

 

冨澤 日本設計では環境・設備設計で多くの先進的な取り組みを行っていますが、中でも地域冷暖房の豊富な実績があるように思います。地域冷暖房の担う役割について伺います。従来では一つのエリアで熱融通し省エネ化していますが、今後、集約化以上の役割があれば教えてください。

篠﨑 地域冷暖房は、2000年代以前は集約化・効率化が目的でしたが、東日本大震災以降は防災、BCPの要素が増え、災害時における事業活動の継続が重視されてきました。
最近は一つのプラントだけでなく地域で連携するネットワーク型の解決になりつつあります。ストックを生かしながら最新の効率を加えることができたり、建物側だけでなくエネルギーインフラ側のストック活用も進んでいます。東日本大震災時の電力による集中管理への危機感から、エネルギーの分散・自立化が進み、スマートグリッド化など、一部が途絶えても他で補うような仕組みが整いつつあります。
今後は更に広域でネットワーク化し、エネルギーや交通システムも都市部と地方の垣根を越えていく動きが出ていくのではないでしょうか。

 

日本設計について

冨澤 社長メッセージを拝見して、「『現代文明の脆さ』にいち早く警鐘を鳴らした設計者集団」と表現されています。「現代文明の脆さ」とは何か、そしてその解決へ向けてどのように取り組まれるか、教えていただけますか。

篠﨑 日本設計の歴史を語ることになりますが、2代目の社長の池田武邦が「環境の日本設計」と言い始めました。池田は仕事終わりに三井ビルから出て初めて雪が降っていたことに気が付き、自然界と切り離されて生きている人間の在り方に違和感を覚えました。現代文明の象徴である窓も開かない超高層に危機感をもち、自然と人間の間隔を近づけていく必要があると感じたそうです。池田は近代化とそれ以前の豊かさのギャップを示しながら現代文明の進む方向への危惧を感じ、いち早く警鐘を鳴らしました。私もこれに共鳴し池田とは違う方向でこの課題を解決したいと感じていました。
その解決に向けてどのように取り組んでいるかはまさに模索中です。カーボンニュートラルも取り組んでいかなくてはならない課題の一つです。環境快適性を数値だけで評価する限りエネルギー消費の削減は頭打ちとなるでしょう。人間の感性や感覚を取り入れればもっと自然に近いところで暮らせるはずと思います。これからは今までの価値を一つ一つひっくり返すようなことをやっていく必要があると感じています。

冨澤 社長挨拶の中で日本設計の職務の方向性として、「先鋭的なデジタルテクノロジーを駆使し、専門分野を越えた知のネットワークを拡大し、それを統合するチームワークを強化する」ということを掲げられています。最先端のデジタルテクノロジーを活用したプロジェクト例など、新しい取り組みをしているプロジェクトをご紹介いただけますでしょうか。

篠﨑 最近の事例だと「上越市立水族博物館 うみがたり」です。日本海の特徴的な海底地形を再現した大水槽と目前の日本海と一体となるイルカプールが特徴です。環境の日本設計のもう一つの側面では、自然に対して畏敬の念をもち、住まわせていただいているという気持ちを大切にしています。ときには厳しい自然環境があって、私たちはその中にどうにか自分たちの居場所を作っている、その環境に気づいてもらう施設をつくり、日本海の雄大さを伝えることを考えました。大水槽は海底デジタル図から、3Dでモデリングし、水温や水流の厳密なシミュレーションを行い、デジタイズしたものを模型にうつして自然な雰囲気になるようテクスチャーを与え、さらにスキャンしてデジタイズするようなループを組んでデザインしました。このようにデジタルとアナログが混ざり合う状態は、それぞれの特性が違うため人間の感覚が拡張されていくのではと思います。
また、皆さんには必須となっているBIMですが、BIMは設計の道具であり、インフラとして大切です。情報をどのように人と共有するか、そのプラットフォームとなるBIMにも力を入れています。

上越市立水族博物館 うみがたり/ 撮影:日暮雄一
左:外観、右:日本海の改訂地形を1/10,000(深さ方向は1/250)スケールで再現した日本海大水槽

 

冨澤 「専門分野を越えた知のネットワークを拡大し、それを統合するチームワークを強化する」とはどのようなことでしょうか。

篠﨑 最近は建築設計の枠を越えた相談も増え、それに応えるためにプロジェクトデザイン群を設立しました。複雑な課題を抱えたクライアントが多く、「何を作ろうか」といったことが課題となることもあります。ホテルを例にお話しすると、ホテルにはさまざまな種類の空間があり、多様な人がかかわる中で一つのブランドを作り上げます。これをどのように進めていくべきかという相談にも対応し、社内外問わず、さまざまな職種の方をつなげたチームを構成することを提案しています。
また、どうやったらこの地方が元気になるかといった相談もあり、外部の方を交えて一緒に考えたりもします。例えば「熊本城特別見学通路」です。熊本地震により崩壊した熊本城復興の過程を見せることを考え、見学用のブリッジを作ることを提案しました。地中の遺構や樹木を避けて見学通路を計画し、熊本城の復興をどう進めていくかを検討していた仕事ですが、最終的には構造や建築の技術や史跡の専門家などネットワークを拡大して解決しています。かつてはプロジェクトとして存在しえなかった仕事をプロジェクトとして作り出していくことも設計事務所の仕事となっています。

 

学生・若い世代へ

冨澤 学生や若い世代へ何かメッセージをいただけますでしょうか。

篠﨑 今、最先端というとデジタルの分野のイメージですが、建築や都市の領域が本当の意味でも最先端となり得ると思います。デジタルテクノロジーでプログラムを組むことはおもしろいかもしれませんが、それが実際の物の世界に帰ってきて行き来することがさらにおもしろい側面と思います。建築や都市の分野はその両方に関わることができる職種だと思います。同時に、工学的で数値的な領域から、文学的で感覚的な領域へと行き来することができる職種でもあります。デジタルネイティブな世代にぜひチャレンジしてほしいと思います。
歴史的視野の中でカーボンニュートラルを捉えていたように、そこまでの広い視野をもっていないとやるべき正しいベクトルが見いだせないと思います。建築業界の幅の広さは尋常ではなく、常に新しいことにチャレンジしている感覚です。幅広い知見に支えられる職業は楽しいしわくわくします。

上原 今学生がするべきこととして、見識を広げることが必要でしょうか。

篠﨑 見識は軸がないと見えないのではと思います。私は大学時代に建築史というジャンルに絞ることにより知識を深堀していました。視野を広く持ちながらも深堀できるのは学生のときならではと思います。

冨澤 デジタルの話題がありましたが、現在は手段が多様化しています。しかし、大事な本質はどの時代も変わらないと思いました。何かを探求するときに心がけていることはありますか。

篠﨑 調べることは技術です。必要な情報にたどり着くための方法論はネット検索でも変わりません。情報量が多いため、信憑性が高い資料にたどり着けるかが重要です。学生のとき、研究において一次資料、二次資料の確認を常にしていました。この癖がついているためネットの海に溺れずにすんでいます。学生のうちに信憑性にたどり着くための技術を身に着けてほしいと思います。

[インタビュー:2021.11.26]

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