いままで見たことがないものを提案する。アルミ型材と膜で外装をつくる日本初の試み
OMO7大阪 by 星野リゾートは、星野リゾートによる大阪初のホテルで、周辺エリアの魅力、地域の個性を楽しむことができる都市型ホテルです。
白い膜で覆われた特徴的な外観は、建物のコンセプトや環境性能、施工のしやすさなど様々な観点から考案されました。前編に続き、設計を担当した日本設計プロジェクト管理部フェロー松尾和生と、建築設計群 瀬野建人へのインタビューを通して、そのアイデアと実現までの一端をご紹介します。
技術開発に1年半。各分野の知恵が集結したことで実現した外装膜
OMO7大阪 by 星野リゾートはアルミ型材と膜素材で外装をつくる日本初の建築です。膜素材の利用はドーム建築や仮設の屋根などが一般的ですが、これほどの大きな面積の鉛直面への採用には多くの挑戦がありました。
バルコニーから見た外装膜。 撮影/稲住写真工房
全体の外装面は膜材5265枚からなり、縦約900mmで長さが異なる184パターンの膜材をランダムに配置し、3層1ユニットとして繰り返すことで構成されています。
膜材パターンのユニット
また、膜材には、光触媒による自浄作用、光を透過しながらも熱を遮断する特性、アルミの熱伸びに追従する伸縮性、さらに演出照明のスクリーンに適した可視光反射率を考慮し、フッ素樹脂酸化チタン光触媒膜を採用しました。光触媒の自浄作用により外装面の清掃の頻度は極めて低く抑えられます。
図版提供:太陽工業
大阪市の条例により原則、避難バルコニーの設置が定められていますが、膜と外壁の間にバルコニーを設置することで、バルコニーを目隠ししつつ、非常時における避難および救助ルートの確保、さらに通常時はメンテナンス通路と兼ねることで、常設ゴンドラの設置が不要となっています。またこの膜はバルコニー側から取り付け、足場を用いずに施工できるディテールとすることで、イニシャルコストの軽減にもなりました。
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外装膜の技術開発には約1年半の月日がかかりました。
膜構造の屋根などは剛性が高いスチールを用いることが一般的です。そのなかで今回はアルミ材による膜の取り付けディテールにより、外装材として組み立てやすくしている点にも新しさがあります。
「スチールでは重いため躯体にも影響し、錆びやすい。今回は軽さや施工性、安全性などの理由から、初期段階でアルミを採用することを決めていました。ただ膜材の張力がアルミフレームの大きな応力へと変換されるため、アルミの大きさと張力のバランスを模索し続けました。メーカーも初の試みだったので、3社で共同して試行錯誤しつつ、技術開発に長く時間がかかりました。」(松尾)
「何度もモックアップを製作し、風洞実験、音鳴り試験、層間変位試験など様々な試験を行い強度や膜のばたつきを検証しました。
フラッタリングと呼ばれる強風によるばたつきが起きない程度の張力は必要ですが、張力をかけすぎるとリラクセーション(材料に力を加えて一定の歪みを保った場合、時間と共に応力が減少する現象)が起こり、アルミも太くなりコストも上がるため、そのバランスを取るため現場での微調整を繰り返しました。」(瀬野)
アルミ製の横材には約13,000個のLED照明を配置し膜に映像を映し出します。これまでの他事例で採用されていた直接点光源による映像手法では、LEDを直接見る方法となり眩しさに問題がありました。そこで間接光によって膜へ上向きに線状照射することにより映像化するという新しい方法を生み出しました。
「膜材をイメージした時から映像を映し出すアイデアはありましたが、その時にはLEDのレンズの技術が十分でなく、実際できるかは難しいところでした。施工の現場が進む中でメーカーが新しいレンズの技術を開発し、実現が可能となったのです。面白いことができないかと総力を集結していき、デザイン、構造、電気などすべての分野がうまく融合して外装膜が実現したと言えます。」(松尾)
外装膜断面詳細図および試験点灯時の演出照明(右上写真)
日本初のアルミ材による外装膜は、意匠登録とともに、演出照明の特許登録もされています。
(意匠登録:太陽工業、 不ニサッシと共同 演出照明技術登録:トライトと共同)
新たなランドマークとともに街の未来へ馳せる想い
客室の明かりが膜越しに漏れ、行燈のように全体が柔らかく光る。 提供/OMO7大阪 by 星野リゾート
「新今宮駅はこれまで交通の要所ではあったものの、ディープな街のイメージのため通過するだけの人がほとんどでした。それが、このホテルができてから、目的地になる街へ変わってきたと思います。」(瀬野)
「あいりん地区の昔ながらの建物が並ぶ合間から、白い帆船のようなこの建築が見えると新旧の時代がこの町に共存しているのを感じます。子供が『みやぐりん』で遊んでいたり、ベビーカーを押したご夫婦が街を歩いていたりなど、かつては想像できなかった光景を目にするようになりました。また、緑豊かな『みやぐりん』のお蔭で鳥や虫も増えました。夏から秋にかけてたくさんの虫の声とともにプラットフォームの電車の音が聞こえ、都会の中にいながら不思議な感覚になります。人の流れも変わってきていますし、人々の街の捉え方も変わってきていると感じます。
今後、この建築とともに歩んでいく新今宮の街の10年後、20年後が楽しみです。」(松尾)
左:建築設計群 瀬野建人 右:プロジェクト管理部フェロー 松尾和生
特記なき撮影/日本設計
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