メニュー
  • EN
  • 簡体
  • 繁体
Youtube Instagram
  1. HOME
  2. THINK
  3. 南山大学におけるモダニズム建築群の保存再生と大学キャンパスの成長デザインへの取り組み
2024.04.19
レーモンドのマスタープランおよび建築群の文化的価値を継承し、大学キャンパスの成長へつなげる

南山大学におけるモダニズム建築群の保存再生と大学キャンパスの成長デザインへの取り組み

マスタープラン模型を囲むアントニン・レーモンドと所員
(写真/レーモンド設計事務所提供)

名古屋市にある南山大学キャンパス(1964年創建)は、アントニン・レーモンドが「自然を基本として」をコンセプトにマスタープランから設計まで手掛けたモダニズム建築の名作です。日本建築学会賞(1964年)を受賞し、docomomo100選(2003年)に選定されています。

その特徴は、緩やかな丘の尾根をメインストリートとし、櫛状に建物を並べ、その間に緑が入り込むマスタープランです。赤土色のコンクリート壁に映りこむ、庇やルーバーによる美しい陰影を持つ建築群がつくり出すキャンパス景観は、アントニン・レーモンドの設計思想が現在まで伝えられた貴重な遺産と言えるでしょう。

 


増築建物と調和したキャンパス景観(写真/滝田フォトアトリエ 滝田良彦)


創建当時から学生の記憶に残る大教室の再生(写真/滝田フォトアトリエ 滝田良彦)

 

南山大学は、この文化的価値を資産として活かす方針を固め、本キャンパスに全学部を統合する計画に取り組みました。そして新たに学生を受け入れるためのキャンパスの再編を実現しました。
日本のモダニズム建築は、文化財として未指定のものが多く、保存への取り組みや法制度による支援が十分とは言えません。老朽化により取り壊されることも珍しくなく、本キャンパスも建て替えを検討した時期がありました。しかし、キャンパスの成長戦略の中でモダニズム建築群およびマスタープランの価値を改めて確認し、本キャンパスのアイデンティティの力強い継承につなげることにしたのです。

 

「重要文化財(建造物)保存活用計画策定指針」に準拠して、「保存部分」「保全部分」「その他部分」を設定。関係するすべての方々と共有し、長期間におよぶプロジェクトに対応したガイドライン

 

1964年と2019年の鳥瞰写真(写真左/北澤興一氏所蔵、写真右/滝田フォトアトリエ 滝田良彦)

 

キャンパスのプログラムの再編

より質の高い教育と研究を提供し、他学部・他学科間での交流が活性化することを重視したプログラムの再編を行いました。教室・食堂・クラブハウスの増築、教員研究室とセミナー教室、ロッカー室、ラーニング・コモンズへの改修等、キャンパス全域の外構整備について、延べ面積約15,300㎡の増築工事(2棟)、約27,400㎡の改修工事(16棟)を7年度をかけて行いました。

 

「自然を基本として」を体現する校舎の増築

アントニン・レーモンドの設計思想、マスタープランを反映し、外部との連続性を意識した棟配置、自然採光と自然通風を基本とした施設計画としました。丘陵地の特性を活かして、緑に囲まれた立体的な学生の活動の場となっています。ルーバー等の外装は、フレームサイズと部材のバランスの確認、制作限界との調整やモックアップでの確認を繰り返し、調和のとれたデザインを完成させました。

 

教室棟を貫通する緑地(写真/滝田フォトアトリエ 滝田良彦)

 


赤土色の壁とルーバーデザインを継承する教室棟
(写真/川澄・小林研二写真事務所)

緑に囲まれた食堂棟(写真/滝田フォトアトリエ 滝田良彦)

 

キャンパスの景観デザインの継承

現地土壌の色である特徴的な赤土色の外壁を再現しています。創建時から引き継がれるキャンパス景観を美しく安全に再生するため、ルーバーは全て劣化調査を行い、外観に影響の少ない改修方法を丁寧に選択しました。外構改修では、マスタープランの骨格・美観を維持することを重視しながらも安全性、美観・機能性を確保した再生を行っています。誰もが憩えるようバリアフリー改修を行い、キャンパス全域の動線を活性化しました。


美しい陰影を持つキャンパス景観
(写真/川澄・小林研二写真事務所)

学生で賑わうメインストリート(写真/滝田フォトアトリエ 滝田良彦)

 


教室棟間の豊かに成長した緑地(写真/滝田フォトアトリエ 滝田良彦)

メインストリートへ繋がる小径(写真/滝田フォトアトリエ 滝田良彦)

 

キャンパスの成長の歴史をアーカイブとして一般公開

アントニン・レーモンド自身がデザインした壁画と外部レリーフ、創建時のアルミサッシやガラスを工業的な遺産として保存しています。また、本プロジェクトの理念、設計上の要点、工事記録を「保存活用工事報告書」に取りまとめました。大学図書館内に展示コーナーを新設し、これらの記録を次世代へ確実に継承しています。


レリーフが象徴的なパッヘスクエア(写真/川澄・小林研二写真事務所)

壁画を活かしたG 棟のメインエントランス
(写真/川澄・小林研二写真事務所)

 

大学図書館に新設したプロジェクトの展示コーナー(写真/南山大学提供)

 

学生の心地よい居場所

学生の居場所である教室などは、既存天井・壁の改修による耐震性能の向上やアルミサッシの撤去新設、換気設備の増設、什器・AV機器を再整備し、現代の教育環境に相応しい空間に改修しています。
コンクリート打放しの柱・梁、木製の壁を保全しながら、自然に囲まれた心地よい空間に再生しました。


学生の交流拠点となる開放的なコリドー
(写真/川澄・小林研二写真事務所)

豊かな緑を望む学生食堂(写真/川澄・小林研二写真事務所)

 


新たな教育環境として再生したG30(600 人教室)
(写真/川澄・小林研二写真事務所)

菱目梁を活かしたオープンな図書館閲覧室
(写真/南山大学提供)
page top