訪ねてもらいたい─品川の未来へ続く、街を拓いた先駆者
品川駅港南口を出ると、駅から街へと人の流れを導く「スカイウェイ」が伸び、その先に豊かな緑の帯が広がります。品川インターシティと品川セントラルガーデンです。
竣工から約四半世紀を経た現在も、多くのワーカーや来街者が行き交い、昼休みにはベンチでくつろぐ人の姿が見られます。周辺ではTAKANAWA GATEWAY CITYをはじめ新たなまちづくりが進むなか、品川インターシティ・品川セントラルガーデンは、品川駅周辺の発展を先導してきた都市開発として、今なお大きな存在感を放っています。
今回は、入社4年目の日本設計の社員3名が現地を訪れ、都市計画、建築、ランドスケープの視点から、この場所に込められた設計思想と、未来へ受け継がれていく価値をたどりました。

レポーターの3名。品川インターシティ スカイウェイにて。左から強瀬 智子(第2建築設計群)、小野原 祐人(ランドスケープ・都市基盤設計部)、荒木 望 (都市計画群)。
品川駅港南口の発展を牽引した「えきまち一体開発」の先駆け
品川インターシティは、旧国鉄操車場跡地を活用した大規模開発として誕生しました。当時の品川駅港南側は、食肉市場や浄水場などの都市基盤施設が多く立地しており、現在のようなオフィス街としての姿はまだ形成されていませんでした。
また、品川駅周辺は線路によって東西が分断され、歩行者ネットワークの整備が大きな課題でした。品川インターシティでは、駅と開発区域を一体的につなぐ歩行者ネットワークとして、2階レベルで駅と街をつなぐ「スカイウェイ」が重要な役割を担うことになりました。

1998年、竣工当時の品川インターシティ。2003年竣工の品川セントラルガーデン、品川グランドコモンズはまだ建設前。(撮影:川澄建築写真事務所)
荒木:スカイウェイは、単なる通路ではありません。品川インターシティへ人を導きながら、セントラルガーデンや周辺街区へと視線と回遊を広げていく都市の骨格です。品川インターシティと合わせて整備された品川駅の東西を結ぶ東西自由通路とともに、この歩行者ネットワークの整備が、その後の港南口の発展における大きな契機となりました。現在も品川駅を利用する多くの人々を支える主要な都市基盤として機能しています。
その後、2003年には東海道新幹線が品川駅に停車するようになり、品川は首都圏の主要交通結節点としての性格を一層強めていきます。
![]() 現在の東西自由通路。 |
![]() 帰宅ラッシュ時にスカイウェイから品川駅へ向かう人々。 |

地下車路を見学。片道400mの一方通行の車路が一周し各棟を巡回できる。

緩やかにカーブを描くスカイウェイ。
強瀬:南北に貫くスカイウェイは緩やかなカーブを描くように計画され、視線の変化や先への期待感が生まれています。
荒木:地下1階レベルのセントラルガーデン、2階のスカイウェイが立体的につながり、車に分断されない豊かな歩行者空間を形成しているため、さまざまな場所に人々の賑わいが生まれています。
境界を消し、一体的に使い続けられる都市公園
品川インターシティのもう一つの大きな特徴は、建物群の目前に広がる品川セントラルガーデンです。幅約45m、長さ約400mに及ぶこの緑地は、複数の事業者の敷地を一体的に活用し、都市計画の枠組みのなかで整備されました。
計画当初は総合設計制度の活用が検討されていましたが、より大きな都市的価値を実現するため、再開発地区計画制度へと計画を移行しました。これにより、容積率の高度利用と、まとまったオープンスペースの創出を両立させる計画へと発展していきました。

品川インターシティのスカイウェイから品川セントラルガーデンを見る。
小野原:複数の事業者の民有地、港区と品川区にまたがる区立公園という複雑な土地条件を乗り越え、境界を感じさせない一体的なパブリックスペースを実現しています。
荒木:今日の都市開発では、駅と街を一体的に整備し、公共的な歩行者空間や緑地を組み込む考え方は広く浸透しています。しかし、品川インターシティが計画された1980~90年代において、一つの街区で完結する開発ではなく、車路、歩行者空間、緑地、インフラが街区を超えて一体的に構想された計画は画期的だったのだと思います。こうして整備されたネットワークは現在の品川の都市基盤となりその後の周辺開発にも続いています。
強瀬:私は、品川エリアの新しいまちづくりであるTAKANAWA GATEWAY CITYの、建築設計に携わりました。TAKANAWA GATEWAY CITYでも、2階デッキや歩車分離など、品川インターシティに通じる要素が随所にあります。品川インターシティは、現在の品川の姿を先取りした「えきまち一体開発」の先駆者だったのだと改めて感じました。
都市の骨格を支えるだけでなく、品川セントラルガーデンそのものも、人が心地よく過ごせる空間となるよう細やかにデザインされています。品川セントラルガーデンは、当初の「千本桜構想」から変遷し、最終的に「みち」と「もり」を融合させた「みちもり広場」というコンセプトのもとで設計されました。
小野原:約400mという長さを単調に感じさせないため、人が心地よく感じるスケールとして28m角のユニットを設定しています。それらを13個連続させながら、少しずつ角度をずらして配置し、さらにユニットの間にはシラカシの防風植栽を「くさび」として挿入することで、空間にリズムと変化を与えています。

整列して植えられたカツラの木と、ユニット同士の間のシラカシ。
強瀬:主要樹種は、葉が小さく柔らかな印象をもつカツラと、常緑のシラカシに絞られています。紅葉と常緑の双方を楽しめ、季節の移ろいを感じさせながらも、都市空間としての統一感を保っています。主要樹木であるカツラは、設計者が関東近郊の圃場を歩き、樹形の美しいものを一本一本選定したそうです。

様々なアウトドアファニチャーが置かれ、ワーカーや近隣住民の憩いの場となっている。

取材時は都市緑地の新たな可能性を探る実証実験が行われていた。現在も使われ方を更新し続けている。
小野原:近年は自然の原理に沿ったランドスケープも多く見られるため、等間隔のユニットで樹形もそろった木々は新鮮に感じました。しかし実際に歩いてみると、空間として変化があり単調には感じません。
セントラルガーデンは、南北の道路レベルより中心に向かって緩やかに下がる設計となっています。防潮上の条件に対応しながら、地下1階レベルで各棟商業施設とも接続し、広場としての一体感を生み出しています。樹木は竣工後も成長を続けており、ブリッジやスカイウェイから見える風景も、今後さらに変化していくはずです。
品川セントラルガーデンは、民有地と区立公園が複雑に組み合わされた場所でありながら、現地を歩くとその境界をほとんど感じません。これは、区立公園と民有地の境界柵をなくし、品川インターシティマネジメントが一体的に管理・運営する体制を構築しているためです。
その結果、ワーカーの憩いの場としてだけでなく、地域と連携したイベントの場としても活用されています。ビールイベントや映画上映なども、品川インターシティ、品川グランドコモンズといった区分を越え、エリア全体で一体的に展開されています。

区立公園と民有地の境界が分からない一体的な都市公園

豊かな緑の下で、思い思いに過ごす
強瀬:TAKANAWA GATEWAY CITYではプロムナード上に「パブリックレルム」と呼ばれる個性的な滞留空間の連続により、人の居場所を散りばめています。一方、ここには、広大なセントラルガーデンという大きなパブリックスペースがあります。それぞれの時代や場所性に応じて、特徴ある公共空間がつくられていることが分かりました。
小野原:自然環境として良いだけでは不十分で、そこに人の居場所があり、それぞれの時間の過ごし方があることが良いランドスケープだと思います。品川セントラルガーデンでは、シンプルな操作により、多様な人々の活動や過ごし方の選択肢が生まれていました。
セントラルガーデンには、5m角のフレームを基本とした7つの「フォリー」が点在しています。これは、地下に集約された車路や地域冷暖房施設の給排気塔など、通常であれば隠されがちな都市インフラを、品川の自然や歴史をテーマにしたアート空間として造形したものです。
![]() 「光」をテーマにしたフォリー。舞台のように使うこともできる仕様。 |
![]() 東海道から江戸への入口であった史跡、「高輪の大木戸」をテーマにしたフォリー。 |
小野原:給排気塔をアートに変換しているのが面白いです。演劇の舞台のように設えられているものや、水が流れているものなど、多様な場所性につながっています。隠してしまいがちなものを、あえて造形にしているのが印象的でした。
南側のフォリー周辺には住宅もあり、よりヒューマンスケールなビオトープ的空間がつくられています。都市の中心にありながら、人の居場所、生き物の居場所、風の通り道が重なり合っています。

品川インターシティと品川グランドコモンズを繋ぐブリッジ
強瀬:セントラルガーデンは、環境を考えたデザインであると同時に、都市のなかに多様な余白を生み出す空間でもあります。都市における余白は、人を呼び、賑わいの場となるのだと実感しました。
品川インターシティと品川グランドコモンズをつなぐブリッジも、ここでの景観を特徴づける要素の一つです。350mm角の細い鉄骨パイプ、テンション材、揺れを吸収するダンパーを組み合わせることで、大きなスパンを飛ばしながらも軽快で美しいデザインを実現しています。
小野原:地下1階レベル、地上レベル、2階スカイウェイレベルと、さまざまな高さから見られるセントラルガーデンは、歩く位置によって異なる表情を見せます。
立体的な歩行者ネットワークと一体となり、視線、動線、活動が重なり合うことで、この場所ならではの奥行きが生まれています。

品川駅から見たセントラルガーデンとブリッジ。
風をいなし、透明感を追求した群造形
品川インターシティは、セントラルガーデンを中心とした南北軸の先にホールを配置し、都市に開かれた公共的な機能を組み込んでいます。ホールは約700人を収容し、多くの利用があるといいます。

品川駅から見た品川インターシティ。
小野原:一方、超高層棟の配置と形状には、都市環境への配慮が込められています。3棟の超高層ビルを単純に直列に並べると、風下側で強いビル風が発生する可能性がありました。そこで風洞実験を重ね、A棟を楕円形とし、B棟・C棟を雁行して配置することで、風を逃がす構成としています。
荒木:この配置は、品川駅側から各棟が見えるという都市景観上の効果も生み出しました。超高層ビル群による圧迫感を和らげるため、外観には「透明感」というテーマが掲げられ、透過率の高いガラスが採用されています。
強瀬:A棟では、先端部を狭く、中央部を広くする複数のガラス幅を用いることで、曲面をシャープに見せています。B棟・C棟では、自然石の洗い出しPC板の上にガラスを重ねるダブルスキンを採用し、時間帯によって奥行きや反射が変化するファサードを実現しています。

屋上。上空近くを羽田空港へ向かう飛行機が通る。
今回の取材では、特別に屋上も見学させていただきました。
品川周辺は航空法による高さ制限があり、羽田空港へ向かう飛行機が上空を通過します。都市のスケール、交通の結節点としての品川の位置づけ、そして建築が置かれた環境条件を、屋上から改めて実感する機会となりました。
竣工四半世紀を経て、時代に応じたバリューアップ
荒木:竣工から年月を経た現在、品川周辺エリアにもオフィスビルが増えているなかで、競争力を維持するため、品川インターシティでは、時代とテナントニーズの変化に対応するため、大規模なリニューアルが順次進められています。
東日本大震災を教訓に、非常用発電機が増強され、保安負荷への供給時間を延長し、テナント専有部への電源供給も可能とするなど、防災性能の向上も図られています。
強瀬:A棟やB棟の共用部では、かつてシンプルで広々としていたロビー空間に、木調で温かみのあるラウンジやワークスペースが新設されていました。竣工当時の「透明感」というコンセプトを受け継ぎながらも、現在の働き方に合う居心地の良い空間へと更新しています。エレベーターホールやリフレッシュスペースも、より温かみのあるデザインへと改修が進められています。
![]() C棟2階のロビー。 |
![]() ワーカーのためのラウンジ。 |

トイレ前の自然換気システムを見学。
小野原:エレベーターについても順次更新が行われていますが、建物を使い続けながら改修するため、全体の更新には長い時間を要するそうです。使いながら変えていくことも、竣工後長く愛される建築には欠かせない視点です。
強瀬:トイレや給湯室もリニューアルが進んでいました。オフィスからトイレへ向かう動線をリフレッシュコーナーと位置づけ、外気を感じられる自然換気システムは竣工時からのもの。良いところは残しつつ、給湯室をオープンなパントリーへ変更するなど、時代に合わせたバリューアップが行われています。
スカイウェイ横の吹抜けでは、高天井部分で特定天井対策工事が行われ、地下1階商業エリアではリニューアルも進み、新たな飲食空間が整備されています。日常的な働く場としての利便性を高めながら、エリア全体の賑わいを更新し続けています。

スカイウェイ横の吹抜け。天井は特定天井工事が行われ、地下1階の商業空間もリニューアル。
「時代に誠実なものをつくる」という設計思想
現在、品川駅周辺ではTAKANAWA GATEWAY CITYをはじめ、国際的な拠点形成に向けた開発が進んでいます。さらに南側の品川浦周辺でも、まちづくり・再開発に向けた検討が進められており、品川はこれからも大きく変化していきます。
そのなかで、現在のスカイウェイや地下車路、水と緑のランドスケープを、南側の新たな開発へとつなげていく将来構想も語られています。品川インターシティ・品川セントラルガーデンで培われた都市計画の思想は、次の時代のまちづくりへと確かに受け継がれようとしています。
小野原:「インターシティ」という名称はヨーロッパの都市間鉄道を想起させ、「都市と都市をつなぐ」というビジョンに重なります。品川インターシティは竣工以来、駅と街をつなぎ、街区と街区をつなぎ、過去と未来をつなぐ場所として、その名の通りの役割を果たしてきました。
強瀬:品川インターシティ・品川セントラルガーデンの一連の計画には、設計者、事業者、施工者がともに街の未来を描いた時間があったことを学びました。
関係者が皆、同じ方向を向き、時に夜を徹して議論しながら、品川の未来を思い描きながら街をつくってきた情熱が、今も街に生きていると感じました。
荒木:当時の設計者が語った「時代に誠実なものをつくる」という言葉が印象的でした。この思想は現在も受け継がれています。シンプルで普遍的な外部デザイン、ヒューマンスケールな都市空間、使い続けながら更新していく姿勢。それらはすべて、時代に対して誠実であろうとする設計思想から導かれています。
都市に余白をつくること。人の居場所をつくること。インフラを隠すのではなく、街の魅力へと変えること。駅と街、建築とランドスケープ、事業者と地域、過去と未来をつなぐこと。
品川インターシティ・品川セントラルガーデンを歩くと、日本設計が大切にしてきたまちづくりの姿勢が、四半世紀を経た今も確かに息づいています。
2026年5月27日 特記なき撮影:日本設計広報室







