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2024.11.08
いわて県民情報交流センター アイーナ

訪ねてもらいたい─多様な要素を紡ぐ力強い空間【前編】

今回は入社4年・2年目の日本設計社員3名が「いわて県民情報交流センター アイーナ(以下、アイーナ)」と、「岩手県立美術館(以下、IMA)」を訪ねました。どちらも2000年代前半に完成した岩手県盛岡駅近くの文化施設です。明快な構成ならではの空間の力強さと、それを形作るさまざまな要素の統合をレポートします。

アイーナ前にてレポーターの3名。写真左から、鈴木 遥子(第1環境・設備設計群)、秋田 飛蕗(構造設計群)、小林 嵩史(インテグレイテッドデザイン部)。

 

 

 

ダイナミックで明快な空間構成

盛岡駅西口を出てすぐ、駅前にカーブするガラスの外観が特徴のアイーナが現れます。

盛岡駅側から見たアイーナ全景(竣工当時)。©木田勝久 木田写真事務所

盛岡駅西口地区の拠点整備の一環として平成12年に公募型プロポーザルが開催され、当社案に選定されました。その後、平成18年5月にオープンしました。
メインエントランスは盛岡駅西口広場に面した人工地盤レベル(3階)にあります。中に入ってまず目に飛び込んでくるのは、トップライトから光が注ぐ9階まで吹抜けのアトリウム空間です。

アトリウム内観のスケッチ。

 

小林:3層構成のゾーニングとなっており、低層部に既存市街地から移転された県立図書館の機能、パスポートセンター・運転免許センターなど行政サービス、中層部に国際交流センター・ギャラリー・プラザなど活動や展示を主体とする機能、高層部にホール・県立大学・会議室などを配置し、それぞれを「知」「楽」「学」の空間と位置づけています。
明確なゾーニングも特徴ですが、利用者がそれぞれの目的で居場所を選択できる、共用部の豊かさも魅力的です。

図書館内、3階と4階をつなぐ階段。

鈴木:図書館の中でも、席を選ぶ楽しさがありますね。新聞を読みに来る方や、自習をする学生さんなど、様々な方で賑わっているそうです。

防災・東日本大震災関連資料の閲覧スペース。

秋田:以前は視聴覚系の資料の閲覧スペースが、現在は防災や東日本大震災関連の資料の閲覧スペースとなっています。このスペースの使われ方のほか、照明のLED化など多少の変更はあるものの、竣工から20年近く経った今でも建築の使われ方の大きな変更はないそうです。

竣工から20年の間には東日本大震災もありました。アイーナは震災後、電気の供給がないなかでも自家発電設備により2日間は建物の機能を維持することができた、というお話が印象的でした。1週間程度、避難所として自主的に開放されたそうです。

児童書コーナー。

 

 

 

 

 

 

 

自動化書庫システムを導入している圧巻の閉架書庫!

鈴木:図書館は岩手県でも最大規模の閉架書庫を持っており、3・4階の開架フロアに並ぶ書籍は全体の約16%とのことです。

小林:4階新聞雑誌コーナーの天井をガラスとしているのも特徴です。エスカレーターの移動時や、上階の様々な場所から図書館の様子を見ることができます。

新聞・雑誌系閲覧スペース。

7階からガラス天井越しに4階の図書館を見下ろす。

小林:アプローチレベルから連続するひな壇状の構成となっており、吹抜け内のシースルーエレベーターや中央を縦断する象徴的なエスカレーターが縦動線となっています。分かりやすい空間構成なだけでなく、見上げ、見下げといった視線が交差する立体的な動線がドラマティックです。

アトリウムを見下ろす。中央を縦断するエスカレーター。

アトリウム。様々なレベルに視線が抜ける。

ダイナミックな空間を成り立たせる構造

コア内部のダンパーも見学。

秋田:全体はラーメン架構(一部ブレース付き)ですが、ダイナミックなアトリウムを創出するために、主要構造体に加え様々な構造的工夫があります。
コンクリート充填鋼管(CFT)柱と鉄骨梁、オイルダンパーにより構成された7.2×7.2mのコアが6箇所設けられており、オイルダンパーを設置した制震構造で耐震性を持たせています。

 

さらに、大きな面積が必要な低層部の図書館と、細かく区画される会議室などが多い高層部とでは、適切なスパンモジュールが異なるので、V・Y・W字型の柱を用いて異なるスパンに対応しています。

 

小林:Y字柱は意匠的にも外観にリズムを作り出しています。

西側外観。©木田勝久 木田写真事務所

構造と環境設備を表すポンチ絵。

 

 

山々を望む北側の吹抜け。

鈴木:寒冷地でのガラスカーテンウォールの採用は、空調負荷が大きくなるなどのリスクもあります。ただ、カーブのついた正面外壁の向こうには、北東側に姫神山、北西側に岩手山を望めます。またアイーナからの眺望だけでなく、街からの眺望も遮らないよう考慮されており、アイーナのガラスの壁面を通して奥羽山脈も望めます。これら山々は岩手県民にとって大事な心象風景で、この眺望を守るためガラスのカーテンウォールを採用したそうです。

小林:透明度の高い開放的なカーテンウォールをつくるためガラスはDPG工法(サッシを設けず、ガラスを点で支持する工法)を採用しています。

 

フィーレンディールトラスとテンションブレース。

秋田:眺望を重視し、開放的な空間を実現するために、ここでも構造的な工夫があります。大スパンのため、梯子状のトラスである「フィーレンディールトラス」を用いて、応力が大きくなる両端部はテンションブレースを入れています。

 

環境に配慮した様々な取り組み

鈴木:寒冷地における多くの人が集まる施設で、しかもガラスで囲われた建築のため、通常では大きくなってしまう空調負荷を低減するために環境面でも様々な工夫があります。断熱型のLow-E複層ガラスを採用しているほか、大きな特徴は総延長約240m、通過風量約80,000m3/hという、当時国内最大規模のクール・ヒートトレンチです。クール・ヒートトレンチとは、地下ピットを利用した設備トレンチを通して外気を取り入れることで、年間で安定した地中熱を有効利用し、外気負荷を低減するシステムです。さらにクール・ヒートトレンチ内部の井水熱コイルによる予熱や、全熱交換器組込みの外調機の採用、CO2濃度による外気量制御を行うことで、徹底的に冬期の外気負荷を削減する計画としています。
それ以外にも、環境に配慮した取り組みを積極的に行っています。現在は環境配慮が当たり前の時代となりましたが、2000年代初頭はそのような取り組みが始まった頃だったのではないかと思います。建築主である岩手県の環境意識も高かったのではないでしょうか。

吹抜け上部のトップライト。

太陽光発電(発電量40kw)は、トップライト建材と一体型で、当時、日本では珍しいものだったそうです。2か所ある吹抜け上部のトップライトにどちらにも太陽光発電設備が備えられています。

また、「学」の空間の東西面は長時間使用する小さな居室が多いため、強化ガラス+空気層+Low-E複層ガラスで断熱を強化したダブルスキンとしています。

中間期は、ダブルスキン下部に設けられた開口部を開けることで外気を取り込み、内側のサッシの開口を通って室内からアトリウムトップライトへ自然換気を行います。夏期は手動での角度変更や開閉が可能な垂直ルーバーでの日射のコントロールに加えて、ダブルスキン上部・下部の開口部を開放して日射熱を排出することで、日射負荷を低減します。当時、垂直ルーバーを手動で角度調整でき、かつ収納することができる機構はヨーロッパでは見られたものの日本では珍しく、メーカーと協働して実現させたそうです。

6階調理実習室。

手動で角度を変えたり収納したりできる垂直ルーバー。

鈴木:太陽光発電や自然換気、日射遮蔽など、施設利用者にも自然エネルギーの利用や省エネルギーのシステムが見える、使えることは環境配慮への啓発にもなりますし、先進的な取り組みだったのではないかと思います。
意匠、環境、構造、それぞれの分野が統合されてダイナミックで明快な空間構成が成立していることを実感しました。

 

 

後編 岩手県立美術館へ続く》

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