室内温熱環境と省エネルギー2(オフィス編)
オフィス空間における換気と省エネルギーを両立した空調システム
大規模なオフィスビルの場合、一般的には、外気と室内還気(レタン空気)の混合後に温度調整された空気を、室内の熱負荷に応じて風量を変えて吹き出す事例が多く、熱負荷に応じて風量を絞った時に、必要な外気量が不足するという問題があります。特に、コロナ禍で、テレワークなど、在室人数が減少し、室内の負荷が小さいと外気が不足してしまう心配があります。
ここで紹介する「赤坂インターシティAIR」では、外気のみを専用に処理する外調機により、湿度調節された外気を室内まで直接供給できる①外調機系統と、室内で発生する熱負荷を処理し、温度調節するための循環された空気を供給する②空調機系統を組み合わせ、それぞれの風量を別々にコントロールできるマルチダクト空調システムとすることで、必要な外気量が不足するという、前述の問題の解決を図っています。
また、この外調機には、室内排気から熱回収する全熱交換器を組み込み、室内のCO2濃度により在室人員に合わせて適正な外気量に制御するシステムも導入され、さらに高効率な中温冷水(冷凍機の運転効率を向上させるために冷水温度を上げたもので本施設は15℃で使用)を利用し、省エネルギーも両立しています。
ここでは、2019年度(before Covid-19)と2020年度(with Covid-19)の空調システムの運用の違いを分析することで、室内環境やエネルギー消費量への影響を把握してみたいと思います。
換気対策による室内環境の変化の考察
新型コロナウイルス感染症の換気対策によって、赤坂インターシティAIRでの2020年度(with Covid-19)の夏季・冬季の外気導入量や室内環境はどうなっていたかを、季節ごとに見ていきます。それに関連して、オフィスでは、テレワークの推奨により在席率が低下し、前年同月比で照明、OAコンセントの消費電力は10%程度減っていました。
下図は、2019年度(before Covid-19)の室内CO2濃度と外調機風量の推移です。代表フロアにおける夏季・冬季の代表週(平日)のデータですが、他のフロアや他の週も同様の傾向でした。夏季・冬季ともに、実際に室内にいる人数に応じて、一人あたり毎時30㎥に相当するCO2濃度1,000ppm以下(設定値は900ppm)になるように、時間毎に適正な外気量に制御して省エネ運用されていました。
一方、2020年度(with Covid-19)は、新型コロナウイルス感染症対策として、外気導入量をできるだけ増やすために、CO2濃度の設定値を下げることで外気量制御を実質無効化し、設計外気量(設計にて想定した定員×一人あたり毎時30㎥)まで増やして運用しました。
下図は、2020年度の室内CO2濃度と外調機風量の推移です。人が減っている影響もあり、室内CO2濃度は、500ppm前後を推移していました。日中(空調時間帯)は概ね1㎡あたり5㎥の設計外気量一定になっており、2019年度の実績と比べると、外気導入量は1週間の合計で1.4~1.5倍に(あるいは、40~50%)増えたことがわかりました。
室内温熱環境は、窓開けにより大量の外気を導入した訳ではないため、冷暖房能力の問題はなく、夏季・冬季ともに快適な状態でした。夏季は冷却除湿した外気を定風量で吹き続けた影響で、室内が必要以上に冷やされ、前年度より約1℃低い温度で運用されていました。
換気対策による外気導入量の変化
次に、外気導入量が各月でどの程度増えたかを見て行きたいと思います。下図は、代表4フロアの月別の外調機の合計風量、空調機の合計風量を2019年度と2020年度で比較したものです。外気導入量にあたる外調機風量は、夏季・冬季ともに前年同月比で60%程度増加しました。
一方、空調機風量は、夏季と冬季で異なる傾向が見られます。夏季は、内部発熱(人体、照明、OAコンセント)が減ったことにより、冷房負荷が小さくなり、外調機と空調機の合計風量も1~3%減となっています。今回のシステムは、外調機から16℃の除湿された空気を供給して内部発熱も処理し、残りの負荷を空調機で処理しているため、空調機の風量は大幅に削減できています。
冬季は、内部発熱が減ったことにより、逆に暖房負荷が増えています。また、冬季の冷房運転時のミキシングロス(冷風と温風が混ざることで生じる熱ロス)に配慮して、外調機から室内設定温度より若干低い18℃の外気を供給しています。その分の暖房負荷も空調機で処理しなければならないため、外調機と空調機の合計風量は60~80%程度と大幅に増加しています。冬季でも冷房運転になるため、外調機は18℃送風にしていましたが、室内設定温度まで上げた方が、空調機の風量を減らすことができ、省エネになることがわかりました。
換気対策による空調エネルギーの変化
次に、空調エネルギーへの影響について見ていきたいと思います。下図は、月別のオフィス全体の熱量(冷水、中温冷水、温水)を2019年度と2020年度で比較したものです。夏季の空調エネルギーは、外気導入量が増加したことにより、外気負荷(外気を冷却除湿するエネルギー)は増えましたが、内部発熱が減ったため、冷水と中温冷水の合計熱量は前年同月比で1~12%減でした。もし全熱交換器が無かったら、逆に増加していた可能性があります。
一方、冬季は内部発熱が減り、室内の暖房負荷も増えたため、外気負荷の増加分と合わせ、温水と冷水の合計熱量は前年同月比で28~38%増でした。もし全熱交換器が無かったら、さらに空調エネルギーが増大することになります。
新型コロナウイルス感染症の換気対策を行った結果、夏季は影響が小さく、冬季はエネルギー消費量が大幅に増加することがわかりました。また、人が減ったことで内部発熱も減り、冷房のための風量は小さくなっているため、必要な外気量が不足するという問題が生じやすい状況になっていることもわかりました。
今回の分析結果から、必要な外気量を適切に確保できる空調システムの重要性と、外気を処理するための冷暖房エネルギーを半分以下に低減できる全熱交換器の有効性を改めて認識することができました。今後も引き続き、換気と省エネルギーを両立できる新しい空調システムを提案していきたいと思います。