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2023.12.27
関東大震災から100年

都市は災害にどう備えるべきか

阪神淡路大震災や東日本大震災など記憶に新しい大地震が発生したほか、近年では集中豪雨や台風による水害が身近な脅威となっています。
災害が起こる度に防潮堤や堤防など土木的な構造物で対策が取られてきました。都市部でも、都市機能が高度に集積する一方で、海面水位より低い市街地が形成されている地域もあり、洪水や地震などの災害に対するリスクが高まっています。
都市における豪雨や台風、そして首都直下型地震が同時に発生する可能性が考えられる今、都市部における複合災害に対する防災の在り方について考えます。

 

多様化する災害
台風・集中豪雨・豪雪といった気象現象に加え、地震・津波・地盤地下などの現象が重なって発生することがあります。これら複数の現象がほぼ同時または時間をおいて発生することにより起こる災害を複合災害と呼びます。また自然災害のほかにも、原発事故、帰宅困難者による混乱、災害関連死と連鎖的に被害が広がる可能性も明らかになっています。近年の地球温暖化により異常気象が頻発化し、水害や土砂災害を引き起こす原因となる線状降水帯や集中豪雨など雨の降り方も変化しています。加えて水温上昇による海面の上昇や猛暑といった被害を深刻化する現象も増加しています。さらに新型コロナウイルスの感染拡大など、避難先に人が集まることによる新たな二次災害のリスクにも備える必要があります。
災害に対して個別に対応するのではなく総合的かつ包括的に対応していくことが求められています。

都市における災害対策の現状
近年の都市開発においては、災害時における帰宅困難者のための一時滞在施設や防災備蓄庫の整備、屋外広場などを一時滞留スペースとして活用することは一般的になりました。自立分散型のエネルギーシステムを導入し、非常用発電設備により72時間の電力を確保している建物が増加。電気設備を中間階に設置する浸水対策も行われています。一方で、既存建物は必ずしも備えが十分でないなどの課題もあります。都市で生活する人々の多様性にも考慮が必要です。
高齢者や体の不自由な方、言葉の壁がある外国人など異なる状況への対応が求められます。

関東大震災以降の主な災害変遷図

 

逃げ込める・留まれるまちづくりを
従来、災害が発生した際はその場所から逃げることを前提とした対策が主流でした。2012年のハリケーンサンディにより被災したNYでは、「Rebuild by Design*」の取り組みの一つ「ビッグU」と呼ばれる水害対策が進んでいます。海岸線沿いのU字型の地域に堤防としての機能を果たす都市公園や防潮壁を兼ね備えた親水空間などを整備し、インフラ基盤の整備だけでなく、市民生活の向上も目的としています。官民一体となり異なる領域が連携し、普段の暮らしを豊かにしながら災害への備えを進めています。また災害は突発的に大規模に発生するため、国や地方自治体による公助だけでは限界があります。建物や街の耐震性・防火性を高めるハードとしての対策に加え、自分のことを自分で助ける自助、地域の人など身近な人同士で助け合う共助、そして公助の三助が連携することで効果的な防災や減災につながり、逃げる必要のないまちづくりが実現できます。
*2013年にNYで開催された気候変動と災害を生き抜く新しい都市像を模索した設計競技

 

[Case01]  自然災害から自然現象へ
防災対策の一つに「防災移転」という取り組みがあります。災害の影響が懸念される地域からより安全な場所へ住居や施設を移転することで住民の安全確保を図ります。移転先の調整や住民の合意など細心の注意が必要であり、またその過程で、その場所の自然を尊重し、地域の持続可能性を高め、コンパクトシティの考えに基づいた移転が求められています。災害に対するリスク分析、土地利用の在り方やまちづくりの方向性、災害時の避難計画など多岐にわたる分野での総合的な取り組みが不可欠です。
[Case02]  自然に倣い、災害リスクを低減す
グリーンインフラとは、自然環境が持つ多様な機能を活用し、地域の魅力や居住環境の向上、生物多様性の促進、気候変動への対応、防災・減災など持続可能な社会に寄与するさまざまな効果を生み出すインフラや土地利用計画の考え方を指します。建物上の緑化、広場などの雨水浸透施設から河川や遊水池の保全、土砂災害の防止につながる森林整備に至るまで、さまざまな規模の取り組みが展開されています。中でも、防災・減災の観点に着目したアプローチはEco-DRR*と呼ばれ、注目を集めています。
*生態系を活用した防災・減災
[Case03]   街並みを守る技術開発
京都の町家は、準防火地域に位置することが多く、増築や用途変更の際には建築基準法への適合が求められ、外壁の開口部にアルミサッシなどの防火設備が必要でした。この背景から、産学官の連携により京町家の意匠の保存・復原と火災に対する安全性の両立が可能となる「木製防火雨戸」が開発されています。20分間の遮炎性能を確保し「もらい火を防ぎ、建物を守る」ことを目的に開発したもので、隣家などの火災の際は雨戸を閉めることで建物を延焼から守ることができます。

 

 

さらなる避難場所の確保を
人口が集中する都市部では新築建物を中心に避難施設の整備が進んでいますが、帰宅困難者の一時滞在施設は依然として不足しています。これらの施設は、屋内であることが望ましいですが、公園や地下道、広幅員の歩道などのオープンスペースを含め、屋外空間においても災害時に利用できるハードウェアを組み込むことで避難場所の拡充につながると考えています。防災公園など機能が備わった施設もありますが、オープンスペースにおいては周辺の建物で災害時に使う機材を保管しておくなど、即応性を高める仕組みが重要です。私たちは公園や道路、建物といった領域にとらわれず、相互に支えあうことのできる提案が必要と考えています。

避難場所の在り方とは
海や川の近くの低地では、大雨による川の氾濫や高潮などにより、広範囲で避難が必要となります。地域内に公共・民間問わず多数の避難場所を整備し、普段からも利用され避難場所として認識を高め緊急時に迅速に避難できるようにすることが重要です。建物の屋上や中間階に避難スペースを確保し、防災訓練などのソフト面の対策と組み合わせ、共用の広場や道路に面して階段を設け、間口を広げてスムーズな避難動線や視認性を確保するなどの工夫が求められます。これらの地域では、浸水期間が長期間続く可能性があるため、域外に避難することを前提とした一時的な避難を想定しています。加えて、地震と水害が同時に発生するような複合災害への対策が重要です。

都市災害とエネルギー
ZEBに必要な自然採光・自然通風の促進や地消地産の再生可能エネルギーの導入は、平常時の環境性に加え非常時の自立性の向上にも寄与します。また新築建物単体では高度な防災性能を備えることができますが、既存建物も含めた、街区・都市全体の防災性能の強靭化が世界の都市間競争においては重視されます。新築と既存建物、平常時と非常時のエネルギーネットワークの構築により、地域全体の環境性能と防災性能を高めることができます。今後は、蓄熱・蓄電、V2B*、水素変換などの蓄エネルギー技術の導入が重要となってきます。エネルギーの貯蔵は、運輸や産業分野との連携を通じて、再生可能エネルギーの有効活用に貢献し、かつ災害時には使用でき、脱炭素と強靭化の視点から効果的であると考えます。
*Vehicle-to-Building: バッテリー設備などを介して、自動車と建物の間で電力の相互供給をする技術やシステム。

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