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2025.02.28
建築構造技術の新時代

RC部材のピン接合、一般化の実現へ

私たちは、建築構造における新たな可能性を追求し、RC部材(鉄筋コンクリート部材)の接合方法として広く用いられる「剛接合」に対して、「ピン接合」に挑戦しました。この手法により柱や接合部の応力を軽減し、柱サイズの縮小、接合部やスラブの配筋削減、設計の自由度向上といったメリットを実現し新たな選択肢を提供します。このディテールの開発背景とプロセス、そして成果についてご紹介します。

 

ピン接合のアイデアと実現

RC部材は剛接合が主流ですが、私たちはPCa柱(プレキャストコンクリート柱)とRCスラブを「ピン接合」とすることで、接合部にかかる応力を軽減するアイデアを実現しました。このアイデアは、2018年に竣工した伊予市本庁舎の設計過程で生まれたものです。当初、剛接合での検討を進めていましたが、地震時の応力集中によりスラブの配筋が過剰となっていました。そこで、柱頭部に円筒形コッターを設け、硬質ゴムシートで部材間の縁を切ることにより、応力伝達を無くすピン接合の発想が生まれました。
同庁舎は免震構造を採用しているため層間変形角が小さく、構造性能評価を通して本ディテールの採用が認められましたが、私たちは通常の耐震構造にも活用できるディテールの一般化を目指し、株式会社建研の協力を得て、実験と改良を重ねました。

伊予市本庁舎 撮影/川澄・小林研二写真事務所   伊予市本庁舎で採用したピン接合のディテール

 

実験と改良で課題を克服

ピン接合のディテールの有効性を検証するため、伊予市本庁舎のディテールを基に実大試験を実施した結果、剛接合時に比べて剛性が1/20まで低減され、免震構造のように層間変形角が小さい状態においてはピン接合として機能することが確認されました。一方で、層間変形角が大きくなるとコッター部分が破損する課題も明らかになりました。

接合部の実大試験 大変形時のコッター部の破損状況

 

この課題を克服するために、コッターの形状や硬質ゴムの仕様などを詳細に検討し、回転性能の向上を試みました。数多くの検証を行うため、東京電機大学の協力の下、軽量な木の試験体を使った性能確認試験で複数案の回転剛性を比較検討し改良を重ねました。

木の試験体を使った性能確認試験

木の試験体から得られた結果を基に、最終的に円錐台形のコッターを考案し、改めてコンクリートの実大試験体を製作して回転性能を確認しました。当初の形状では大変形時にコッターが破損していましたが、今回の試験ではその問題は発生せず課題を克服したことが確認されました。

 

建築技術性能証明の取得

これら3回の試験を経て、2024年1月、日本建築総合試験所(GBRC)から建築技術性能証明を取得しました。これによりディテールの一般化が実現し、免震構造に限らず通常の耐震構造の建物への適用が可能となりました。適用条件として「柱軸力が200kN以下」「本接合部の上階に柱は接続しない」などを定めていますが、これらを満たすことで多くの建物での活用が可能となります。
また、解析の結果、剛接合と比べて柱頭の曲げモーメントが約92%低減することが確認されています。構造解析上ピン接合として扱うことができるため、設計方法はよりシンプルになります。このディテールの採用により、柱サイズの縮小が可能となり、意匠設計の自由度も広がります。


一般化が実現したピン接合の円錐台形コッター

 

本開発は、多くの関係者の協力と地道な改善の積み重ねによって実現しました。この技術は建築設計に新たな可能性をもたらし、今後さらに多くの建物で採用されることを目指しています。

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