Design Insights ~もっと建築が楽しくなる~
都市空間と自然に調和する超高層ビル
「Design Insights ~もっと建築が楽しくなる~」は、日本設計が携わった建築物において、設計担当者らのこだわったポイントを紹介するコーナーです。今回は、超高層複合ビルの赤坂インターシティAIR(東京都港区)をご紹介します。
撮影/川澄・小林研二写真事務所
地下鉄溜池山王駅9番出口を地上に出ると、首都高速越しに赤坂インターシティAIRが見えます。このビルはちょっと変わった建ち方をしています。一般的には、不整形の土地でも最も効率的な場所に四角い建物を配置しますが、赤坂インターシティAIRでは、隣接するビルとの見合いを避け、北側の日影を最小限にするなど、周辺への配慮を重ね、敷地の北西側(首都高速側)に出来るだけ寄せて不整形な敷地に馴染ませるようなかたちで計画しました。設計を担当した第2建築設計群の真崎英嗣は、「そうした計画の結果、四面四角のビルとは異なるとてもやさしい表情となり、南東側には都心とは思えないほどの大きな緑地が広がっています」と話します。
外装デザインにも多くの工夫があります。高層部外装のオフホワイトの縦フィンは日射を制御する役割があり、かつ室内の自然換気を促す仕組みを持たせています。またフィンの付け根の部分には、3.6mピッチでゴンドラレールが隠されていて、ゴンドラはこれをガイドにして上下しています。ゴンドラレールがない部分には自然換気の機構が組み込まれています。フィンのもうひとつの特徴は、方位や向きによって出寸法が異なることです。日差しの強い方角の面は深く、眺望良い面は浅くしており、それらが切り替わるRの部分は曲率に合わせて3種類のフィンを使うことでより滑らかな外観になっているのです。
ゴンドラで外装を清掃する様子 |
R部分は曲率に合わせて3種類のフィンを使用 撮影/川澄・小林研二写真事務所 |
窓周りの熱負荷対策
|
|
赤坂インターシティAIRの緑地側は、オフィスと背中合わせに住宅があります。高層部のオフィスが縦フィンで覆われているのに対し、住宅は南側全面にバルコニーがあり、また周辺建物が横基調のデザインであることから、住宅部分および高層部の一部の外装は水平ルーバーで構成しました。ルーバーの断面形状は、葉っぱのようなかたちになっています。これは、雨だれを切る、雪を内側に落とす、清掃を考慮した透け感と存在感を両立する見つけ幅、コスト、という観点から導き出されたデザインです。「特に、遠景から見た時の透け過ぎない存在感と内部から見た時の閉塞感を感じさせない透け感は良い感じに両立できたと思います」(真崎)
緑地から見た住宅部分の水平ルーバー 撮影/川澄・小林研二写真事務所
モックアップにおける端部検討 |
様々な事象に配慮したルーバー断面形状 |
低層部は、親しみやすい空間とするためにやきものを多用しました。緑地の中はハンドメイドのレンガタイル、高層建物の直下はレンガ中空積みと組み合わせた大判タイル、六本木通り側はテラコッタルーバーというように、空間・居場所の特性に応じて使い分けています。凸凹のあるハンドメイドタイルは時間の経過とともにより一層、緑の中に馴染んできています。床のヘリンボーン張りも、壁の凸凹レンガタイルもどれも職人さんが手作業で仕上げました。
実は、テラコッタルーバーのデザインには秘密が隠されています。「『AKASAKA』といった所在地名や赤坂インターシティAIRの所在地の郵便番号をバーコード化したものをベースにしています。チームメンバーの発案ですが、未来の人へのメッセージみたいで、おもしろいですよね(笑)」(真崎)
やきものを多用した低層部 撮影/川澄・小林研二写真事務所 |
凹凸のあるハンドメイドタイル |
緑と馴染むハンドメイドタイルと高層部形状に合わせた大判タイル |
ヘリンボーン貼りの床タイル |
緑と馴染むハンドメイドタイルと高層部形状に合わせた大判タイル 撮影/川澄・小林研二写真事務所 |
「AKASAKA」などの地名をバーコード化したものをベースにデザインしたテラコッタルーバー |
オフィスゾーンはセキュリティが掛かっていますが、1階や地下1階の飲食店はもちろん、2階のロビー・ラウンジや3階のプライムリブ専門店はどなたでも入れることができます。2階のEVホールは壁に緑が映り込み、天井は天空光のように明るく、外との連続性を意識した空間となっています。そして特におすすめの場所が、EVホールの奥にある2階の緑地に面したラウンジです。くつろげる場所として多くの人に親しまれており、イベントの開催にも利用されています。「床の色は、赤坂の『赤』で、昭和のスナック(笑)をイメージしています。床に赤を使うのは勇気がいるのですが、各国の大使館が並ぶ土地柄、ミッドセンチュリーな設えが映えると考え、採用しました」(真崎)。床・壁・柱にはそれぞれ異なる石材を使っています。柱は美しい大理石の正円柱ですが、この加工は日本国内の限られた工場でしかできません。「関係者間で、目指すクオリティが共有できた時にこうした仕事が形になるのだと思います」(真崎)
緑や白いチェアが映えるラウンジ 撮影/川澄・小林研二写真事務所(写真左) |
緑が映り込むエレベーターホール 撮影/川澄・小林研二写真事務所 |
最後に、冒頭で説明した緑地を紹介します。5,000㎡超の緑地には、200種類以上の中高木や低木、草花によって、まるで「森」のような風景が広がっています。赤坂インターシティAIRの緑地では、均等に枝の張った木を画一的に並べるのではなく、樹木を一本ずつ選び、隣り合う木との組み合わせを考えながら植え込むことで、自然の里山を再現することを目指しました。また、自然に倣った剪定を行うことで、森林の風景に近づけています。
ランドスケープ・都市基盤設計部の山崎暢久は「まるで野山を散策しているような気分に浸れます。隣り合う樹々の関係を注意深く観察すると、場所を譲りながらうまく調和していることがわかります」と話します。
5,000㎡超の緑地 撮影/川澄・小林研二写真事務所 |
お手入れで剪定した枝をご自由にお持ち帰りいただける 「おすそ分け会」を毎月第2水曜日に開催しています。 |
特記なき撮影:日本設計広報室