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2021.09.27
ホテルメトロポリタン エドモント 改修

心地よく穏やかな時間と安心・安全の滞在のために

 

日本設計は1985年に営業を開始した本館の設計からその後の新館の増築、2度にわたる客室の改修と長きにわたりホテルメトロポリタン エドモントとともに歩んでいます。

2021年4月、ホテルメトロポリタン エドモントは本館10・11階の客室を全面的にリニューアルしました。これを機に、2021年7月6日、国際観光協施設協会によるホテルメトロポリタン エドモントのセミナーが開催されました。ホテルメトロポリタン エドモント総支配人 松田 秀明氏および日本設計インテリア設計部シニアデザイナー 内田 幸子が、コロナ禍でのリニューアルの実施やその運営、SDGsとしての取り組みや今後の新たなニーズに向けての展開について対談しました。

松田氏によるホテルの取り組みについての紹介
ホテルメトロポリタン エドモントは1985年に開業しました。ビジネス利用を主とした本館とグループやファミリーの利用が多いイーストウィング、大中小の14つの宴会場、レストランを備えています。
コロナ禍でも地域の皆様やお客様に安心して利用いただけるよう感染症予防対策を徹底しています。ホテルウェブサイト上でもその取り組みを紹介しています。
SDGsの取り組みとして、特にホテルにおける食品ロス問題に取り組んでいます。世界が抱えている食料や飢餓、環境問題など現状を把握した上で私たちができることをホテル内で検討し、情報を共有し全社的に取り組みを進めてきました。食材の使い方や料理の提供方法に工夫を加え、ホテル全体として生ごみを約16%減らすことができました。
コロナ禍の新たなニーズへの取り組みも進めています。リモートワークのニーズに合わせたコンセプトルームを販売しました。また長期宿泊プランの提案、デイユースの促進など利用時間の幅を広げています。まさに今回リニューアルした客室もこういった新たなニーズにも対応しています。

内田より今回の改修計画についての紹介

ホテルの歴史を継承し新しい価値をつくる
建物には歴史があります。改修工事に携わるときには今日までホテルの歴史がつくりだした価値を理解・継承し、新しい価値に昇華させるデザインにしたいと思っています。このホテルに足を踏み入れたときに感じる、温かく穏やかな空気感を表現したいと考えました。これは36年という時間が築いてきた価値です。

デザインコンセプトは「Gentle Textured Stay ―心地よく穏やかな時間に浸る」です。ゲストにストレスフリーの滞在を提供するというエドモント流のおもてなしを表現しています。表現するものは「空気感」と「時間」と「手触り」と、すべて目に見えない感覚的なものですので、視覚的に強い訴求力を求める表現ではなく、それ以外の感覚も含め五感にちょうどよく響くことを主眼とし、素材・色彩・光・ディテールを吟味して空間を構成しています。

Covid-19_安心・安全の滞在のために
計画進行中にコロナ禍となり、充分な情報も時間も無い状況下でしたが、対応策を真摯に考え非常に原則的な結論に至りました。ホテルがこの状況下で提供するサービス「安心・安全の滞在」が十分実現できるように設計することです。ポイントは3つあります。
「納得のいく清掃ができること」清掃がしやすいよう、できるだけ死角を減らし、造作はシンプルな収まりとしています。また汚染を浸み込ませないこと・除去しやすいことを主眼とし、全ての素材は清掃性を配慮したものとしています。
「更新可能であること」壁にはコーナーガードや見切りを設け、傷を防ぐとともに空間のアクセントとしてデザインしています。どうしても除去できない汚れや傷は見切りを手がかりに最小限の更新を可能とし、また造作を後付けにすることにより、更新工事の際も廃棄物を最小限に抑え、SDGsの目標達成にもつながります。
「取り組みの結果の見える化」には2つの意味があります。1つ目は室内の明るさです。掃除が行き届いていることが目で見て分かることで安心感があります。照明を多く設けるのではなく、配置を工夫し、より明るく感じるようにしました。2つ目はお客様がホテルの取り組みを確認できることです。ホテルの取り組みや独自のメソッドをホテルウェブサイトで見ることができます。
今回コロナ禍の対策として取り組んだ安心・安全の滞在のための取り組みは、ほとんどの内容がSDGs目標達成につながるものでした。ホテルと対話をしながら、できることを確実に行い、小さな気づきと工夫の積み重ねにより今回の改修計画は実現しています。ホテルとともに新たな未来価値を共創することができたと思います。

左:改修前 右:改修後

対談:松田秀明氏×内田幸子

内田 まずは改修後にリリースされた清掃の基準、クリーンメソッドについてお聞きしたいと思います。ホテルズ全体としてのマニュアルもあると思いますが、実際には建物ごとに特性や条件は異なりますので、エドモントオリジナルのメソッドを作り、実行、発信している点が素晴らしいと思いました。まさに、安心・安全の見える化です。

松田 通常の客室の清掃マニュアルに加えて、コロナ禍のため、宿泊・宴会・レストランの各部門でどういった清掃をするのが一番感染予防につながるかを専門家にも相談し、形作りました。なるべく早めに情報を公開し、お客様に安心していただきたく、体制を整えていきました。
こういった取り組みは今までの経験の蓄積です。また、実際に動かしながら気づくこともあります。都度改善していく意識が大切です。改修前に拭き取りにくい素材の筆頭であったファブリックは、汚れが落ちやすい素材を選定するといった改修計画における設計者への要望にもつなげています。

 

内田 そうですね。客室の在り方について明快な要望指針がありました。また、設計段階ではコロナ禍の状況の変化を見ながら対話を繰り返し改善していったことも良かったです。例えば今回の改修では客室内のプランについて、ライティングデスクのコンパクト化をしています。イーストウィングと本館のターゲットの違いを明確に分析されたことにより実現したと思います。また昨年、販売開始されたリモートワーク対応のコンセプトルームについては、そのニーズの即時共有を通して、これからの客室の使われ方に対する変化もリアルタイムで捉えることができました。

松田 36年前開業当時のホテルのスタンダードとしては、客室は照度が比較的低いことが標準的な考え方でした。客室に帰って眠るだけなら良いのですが、ホテルの部屋の中で仕事をしたり、長時間室内で過ごしたりするときには、暗いことが疲れたりストレスとなることもあります。時代の求めるニーズに合わせてどのくらいの明るさが適当かというイメージは持っていますので、それを伝えて形にしてもらいました。
客室内の大きなライティングデスクをなくしたことで居住空間に余裕が生まれました。今後、新たな機能を付加する際にも可能性が広がったと思います。

内田 SDGsへの建築の取り組みとして本館客室は2006年の改修の際から成長の早いラジアタパインのようなサスティナブルな素材の採用をしてきました。今回もそれを継続しています。ホテルでの取り組みは先ほど説明頂いた食品ロスの削減の取り組みについては各方面に知られているところですが、地域との共生という点においてもこの地域にとってホテルがどのような存在であるべきかをいつも考えていると伺っています。例えば2011年東日本大震災を機に大規模災害時の帰宅困難者への支援など行政とも協力し取り組んでいますね。

松田 千代田区の飯田橋に事業を始めて36年、ホテルには地域とともに生きる役割があります。3.11の震災時にホテルには人が集まってきました。周辺には老朽化した建物も多く、災害時には頼ってくる方も多くいらっしゃると思います。個室や宴会場の機能も活用できると考えています。千代田区や地域の企業のみなさまと連携し帰宅困難者の受け入れ協定を締結しています。毎年2回、近隣の方も参加いただき継続して訓練を行っています。

内田 私たち設計者はSDGsの取り組みを主にハード面から考えますが、それを運営側、ソフト面で価値をつくり継続されています。これは未来へ続くかけがえのない価値です。

松田 当ホテルはコロナ禍でも休まず運営してきました。そのことで、近隣の方からも安心したという声をいただくこともありました。継続運営することはインフラの一端を担うものとしての責任と思います。維持継続していくことは大変なことですが、なんとか続けています。

内田 これからも安心・安全な滞在のためによろしくお願いいたします。

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