東京駅八重洲口の都市計画が描く新たな東京の風景
プランナーのまちづくりへの思い
東京駅と線路を挟み、丸の内側から見た東京ミッドタウン八重洲(右から2番目の高層ビル)
安川千秋(日経アーキテクチュア2023年6月8月号)
2023年3月に開業した東京ミッドタウン八重洲(八重洲二丁目北地区)は区立小学校、子育て支援施設のほか、国際水準ホテルやオフィス、店舗などが入る大規模複合施設です。本計画は、東京駅八重洲口前の3地区で進む再開発事業の一つで、日本設計は都市計画の段階から携わってきました。私たちの都市計画における取り組みと、まちづくりに対する思いを紹介します。
対話重ね、思いを形に
駅の東側に広がる八重洲・日本橋・京橋エリアは、町人地で古くから町割りを継承しながら日本の経済活動を支えてきました。一方でこれらのエリアは、老朽化した建築物の機能更新や、国際競争力の強化のため高規格オフィスの整備や観光・生活支援の必要性が求められるようになりました。3つのエリアでは、八重洲に先行して日本橋や京橋駅前での拠点整備が動き始めており、中央区はこれらをまとめて「東京駅前地域」と定め、エリアのさらなる発展のために「東京駅前地域のまちづくりガイドライン」を2008年に策定しました。ガイドラインでは、「東京駅前」(八重洲)・「日本橋駅前」・「京橋駅前」をまちづくりの実現を先導する「拠点」と位置づけ、3つのエリアが連携しながら、「安全で快適な回遊性の高い国際都市東京の玄関口」を形成することを目指しています。
東京駅前拠点では2023年現在、東京駅に面する「八重洲一丁目東地区」「八重洲二丁目北地区」「八重洲二丁目中地区」の3地区が連携した再開発事業が進んでいます。
八重洲エリアは、敷地が細分化されており、都市機能を集積するために街区を再編し大街区化する必要がありました。また交通面においては、長距離バス乗降場が幹線道路上に分散し、鉄道などとの乗り換えが不便でした。歩行者空間も十分でなかったため、交通結節機能の強化が求められていました。
道路上にバス停留所が分散し、乗降客により歩道が混雑していたかつての東京駅八重洲口の様子
3地区は2000年ごろから、それぞれ個別に地権者による勉強会や再開発を目指した準備組織が立ち上がり、検討が進められました。
私たち日本設計は、中央区の再開発に数多く関わってきた経験に加え、3地区のうち2地区(「八重洲一丁目東地区」と「八重洲二丁目北地区」)の再開発の計画・設計に参画していたことから、それぞれの地区の公共貢献の提案内容を地域の共通のビジョンとなる「東京駅前地域のまちづくりガイドライン」に具体的に落とし込むための改定に携わるとともに、地域の合意形成を行う中央区をサポートしました。同時に区域内の地権者との対話も積み重ねました。
都市計画群の佐野洋は「私たち日本設計では、都市計画を通してそこで暮らしたり生活をしたりしている方が喜び、豊かなになることを目指しています」と話します。「まずは私たちのまちづくりに対する姿勢を地権者の皆さんにしっかりと示し、その上で皆さんのまちに対する『思い』を聞いています」。
本計画では、東京ミッドタウン八重洲内に中央区立城東小学校が開校しました。高層ビル内の小学校開校は日本初です。「私たちは、対話の中でかつて自身の通っていた城東小学校をこの地に残すことを望む地権者の方の思いを知ることができました。学校は一例に過ぎませんが、コミュニケーションを重ねる中で地権者の方々の思いをくみ取り、それを都市空間や建築の中でどう具体的に形にして次世代に継承していくのか考えることが私たちの仕事です」(佐野)。
都市計画群・佐野洋
八重洲からさらなる賑わいを生み出す
本計画では、3地区の地下に大規模なバスターミナルを整備するとともに、東京駅と周辺市街地を結ぶ地上・地下の歩行者ネットワークを形成し、回遊性を強化します。
加えて八重洲エリアは、東京駅と日本橋や京橋・銀座方面へと向かう人の流れを生み出し、さらなる賑わいをもたらすための「入口」の役割も期待されています。
都市計画群の芳賀健司は「中央区では、まち全体を駅として機能させる『グランドセントラルステーション構想』があります。八重洲はその構想の一端を担っており、周辺の街区とつなぐ動線をつくることで、人を駅からまちへ呼び込みます」と説明します。本計画は、対象エリアだけでなく、より広いエリアに波及し、よりよい都市になることを目指しています。
都市計画群・芳賀健司
大規模バスターミナルと地下歩行者ネットワークの整備イメージ
地下1階の歩行者ネットワークは、東京駅から京橋駅までをつなぐ計画。 | 外堀通り沿いの歩道は、バスターミナルの移設によって開けた空間となり、ベンチや植栽を配置した。 |
都市計画は人々にとってより豊かで快適なまちの姿を描くことです。佐野は「最先端のまちや都市づくりをする一方で、使う人がその便利さや快適さに一見気づかず、それがあることが『当たり前』になることを目指しています」と話します。都市計画は、開発エリアに限らず、周辺エリアにも波及することが多くあります。「都市構造にダイナミックに携わることができるおもしろさがある。都市計画では求められるものが常に変化します。未来を想像しながら常に答えを探していくこともやりがいの一つです」(芳賀)