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2024.05.17
港区立郷土歴史館等複合施設 ゆかしの杜

Design Insights ~もっと建築が楽しくなる~
歴史遺産と対話しながら再構築した複合施設

「Design Insights ~もっと建築が楽しくなる~」は、日本設計が携わった建築物において、設計担当者らのこだわったポイントを紹介するコーナーです。
今回は、東京 メトロ南北線の白金台駅近くの「港区立郷土歴史館等複合施設 ゆかしの杜」(以下、ゆかしの杜)をご紹介します。


撮影:翠光社

郷土歴史館やがん在宅緩和ケア支援センター、子育て関連施設などが入る複合用途の公共施設です。郷土歴史館では港区の歴史や文化を紹介する常設展のほか期間限定の特別展・企画展が開催されています。カフェやミュージアムショップもあり、建物は無料で見学できます。

建物は日本の公衆衛生の向上を目的とした研究機関「公衆衛生院」として、1938年に東京大学建築学科教授の内田祥三氏によって設計されました。公衆衛生院が2002年に埼玉県に移転すると長らく閉鎖されたままでしたが、港区は2011年に建物を保存しながら活用することを決定。その後、2016年から2年にわたる改修工事が行われ、「ゆかしの杜」として生まれ変わりました。

改修のポイントについて、日本設計理事の古賀大は「何を変え、何を護るのかを常に考え、『リビング・ヘリテージ(生きた文化遺産)』として保存と活用を両立できるようにした」と話します。
スクラッチタイルの壁面や連続したアーチといった「内田ゴシック」の特徴を備えた外観の改修にあたっては真正性あるいは真実性つまり、「本物であること」を意味する「オーセンティシティ」を大事にしました。タイルは、一枚一枚ハンマーで叩いて調べる打診調査を行い、劣化が著しい部分を張り替えました。新しいタイルはオリジナルと区別できるように微妙に色を変えています。また、この建物の特徴である小尖塔(ピナクル)の仕上げも新旧で若干色を変えています。これらは創建時以来の原材料と現代の修理箇所をあえて示すためです。

 


タイルは打診調査を行い、劣化が著しい部分を張り替えました

 

円形の吹き抜けを中心とした中央階段は、天井レリーフや手すりの装飾など創建当時の風格が残っています。階段状の講堂も、建設当初の多くの部材がそのまま残されていて、扉につけられたレリーフ(彫刻)や照明など、趣向を凝らしたデザインを楽しむことができます。講堂は現代の法令に則ると集会施設として利用できません。しかし私たちはこの美しい講堂を創建時に近い状態として保つことで、将来、また利用できるようになった際に活用してもらいたいと考えました。


円形の吹抜を中心とした中央階段。安全対策のための手摺や補助照明の追加を行い、 天井レリーフや手摺の装飾など創建当時の風格を残しています。
(撮影:翠光社)


(写真左)旧講堂は館内でも特に来館者に人気です(撮影:翠光社)
(写真中)クラシカルな照明器具
(写真右)演壇左右に飾られたレリーフ(撮影:三輪晃久写真研究所)

 

廊下では、当時使われていたエレベーターのボタンや暖房器具がそのまま残っています。「暖房器具も現在は使われていませんが、当時の雰囲気を感じられるようにあえてそのままにしています」(古賀)。足元に目を落とすと、扉の沓摺はバリアフリーのために平坦にしていますが、端の方は一部残してありました。「改変した痕跡がわかるようにあえて残しています」。タイルや床材も新しくした部分はオリジナルの原材料に似せつつも、同じには見せないようにしたそうです。古賀は「オリジナルと同じ形状のものを作ってしまうと、それは『偽物』になってしまうからです」と言います。


(写真左)エレベーターのボタンと注意書き
(写真中)平坦化した沓摺は一部を残した
(写真右)
当時使われていた暖房器具


(写真左)旧講堂の扉の型板ガラス
(写真右)「人造石研ぎ出し」で仕上げたコミュニケーションルーム近くの廊下の床

 

耐震化といった新しく手を加える部分においても、「新旧が調和しつつ区別できるデザイン」を取り入れました。2階にある郷土歴史館の体験型展示空間や1階のカフェには、斜め格子に強化ガラスを組み合わせた耐震補強工法を用いて、意匠を損なわないようにしました。


1階のカフェでは鋼材とガラス併用による耐震補強工法(大成建設が特許を持つT.G-Wall)を採用しました(撮影:翠光社)

改修前は廃墟のようでしたが、まちの文化財を未来に引き継ぎたいというたくさんの人々の思いによってこの改修が実現しました。「80年前の先達が創り上げた歴史遺産と対話しながら、私たちの技術で現代のニーズに合わせて再構築する、そして大切に次の世代に引き継いでいく。そういうことが期待されていると思います。」

本プロジェクトは今後の近代建築の保存活用における好例となることを期待しています。

 

特記なき撮影:日本設計広報室

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