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2023.07.28
山口きらら博記念公園多目的ドーム (きららドーム)

訪ねてもらいたいー公園と連続する開放的な大空間

2001年7~9月に行われた「山口きらら博」(JAPAN EXPO2001)の主会場としても注目された山口きらら博記念公園多目的ドーム(通称きららドーム)。日本設計はドームの設計監理だけでなく、事業者支援業務として運営システムの設計等ソフト面にも関わり、その支援は今でも続いています。入社3年目の日本設計社員3名がレポートします。


レポーターの3名。大ドーム内部にて。左から内川 和泉 (第1建築設計群)、下山田 勇祐 (構造設計群)、陳 佳慧 (プロジェクトデザイン群)

 

山口宇部空港に到着。きららドームは、瀬戸内海に面した阿知須(あじす)町にあります。どこか南国の雰囲気を感じるのどかな景色のなか車を走らせること30分、特徴的な大小ふたつの白いドームが見えてきました!

非日常だけでなく日常も支える場として

きららドームがある山口きらら博記念公園の芝生ではイベントが行われており、たくさんの子供連れのご家族で賑わっています。

内川:大小2つのドームが連続する特徴的な形は、阿知須がかつて野鳥の宝庫であったことから、この浜辺に舞い降りた水鳥のようなシルエットをイメージして設計したそうです。シンボリックでありながら、亀やクジラなど見る人それぞれが自由に想い描くことのできる形によって、人々の記憶に長く残ってきたのだと感じます。

2階のメインエントランスから早速、大ドーム内部へ入ります。フィールドからの高さ48.5m、直径147mの大ドーム内部は可動式の分割ネットによって最大4つに分割され、異なるイベントや競技を同時に行えるようになっています。この日も分割されたフィールドでテニスとゲートボールが行われていました。


大ドーム内部。写真中央奥に見えるのが8×30mの大型引き戸

陳:「山口きらら博」の時はイベント会場として、博覧会後はスポーツを主とした多目的ドームとして使われています。
もともと、「山口きらら博」を誘致するための、博覧会場の全体計画と、博覧会後の公園全体計画の検討支援から、当社プロジェクトデザイン群の前身であるVMC(Value Management Consulting)群が関わっていたそうです。その後、設計公募型プロポーザルできららドームの設計監理も日本設計が行うこととなり、引き続き事業者支援業務として、コンサルティングを続けることになりました。
当時、県にも多目的ドームの建設や管理運営の実績がなかったため、国内の他の事例のリサーチなども行ったそうです。さらに管理運営マニュアルやシステムの作成、料金設定の検討、広報ツールの整備、職員教育支援など、ハード面だけでなくソフト面の細かいところまで支援し、竣工から20年経った今でも当時の担当者がきららドームに関わり続けています。

下山田:竣工時は、屋内で野球の試合ができる場所は少なく、県外からも利用が多かったそうです。また、近年はシンボリックな外観やダイナミックな内部空間がコスプレ撮影の背景としても人気だそうです。
毎年、夏には公園全体が中国地方最大規模の野外音楽フェスの会場になっており、2018年に開催されたイベント「山口ゆめ花博」では、公園が一面花に覆われ、様々なイベントが催されました。

内川:1階には3つの「フィールドコア」と呼ばれる更衣室やトイレがあり、フィールドを分けてもそれぞれの利用者が利用できるようになっています。また、3つのうち1つはドームの利用者以外も自由に利用することができ、たとえば公園でジョギングをした後に更衣室でシャワーを利用したりなど、地域の人びとの日常生活を支えていることが分かります。
ドームというと非日常の空間のイメージでしたが、きららドームは日常的な生活を支えていて、周囲に広がる公園とともに地域に根差した場所になっていると感じました。

陳:様々な使われ方に応じて、球技の際にボールが見えやすいよう日射を遮る垂れ幕を追加したり、椅子の蹴上部分の色を変更したりなど、細かい箇所を改修しながら使われています。イベント時の吊り物荷重や電源容量についてなど、個々の相談も日本設計が長く続けている事業者支援で対応しているそうです。長く関わっているからこそ、様々な使われ方に応じた細やかな対応ができ、長く人びとにも愛されているのだと感じました。


小ドームから大ドームを見る。小ドームには各種サークルやダンス・楽器等の練習に利用できるコミュニティルームのほか、展示室「きららメモリアル」などがある。

 

軽やかな構造による開放的なドーム


大ドーム屋根架構

下山田:大ドーム内部は、オクルスと呼ばれる天窓や半透光性の膜屋根を通して柔らかい自然光が降り注ぎ、外周のサッシ窓から風が吹き抜ける、開放的な空間です。
屋根架構は2方向格子とシステムトラスをテーマにした「テンセグリック・トラス」と、トラスに固定されず、膜材に生じる経年時の応力弛緩を吸収する「ばねストラット式張力膜」の組み合わせという、独自の架構形式です。屋根構造設計には日本大学名誉教授の斎藤公男氏の技術指導を仰いでいます。


特別に許可をいただき、大ドーム屋根のキャットウォークを歩かせていただきました!間近に見る屋根架構。

下山田:ドーム内部が外側に広がろうとする力に対しては、ドーム裾部のリングトラスと、バウンダリールーフ、大小ドーム間のタイビームで安定させ、屋根の部分で自己完結した構造としています。さらに外周リング上に38基の積層免震用ゴム支承を挟み、ドーム初の免震構造となっています。


展示されている免震支承の原寸模型

下山田:そうした構造の様々な工夫により、屋根を軽量化でき、ドーム周囲を耐震壁としない ことが可能になりました。結果、巨大な構造体の閉鎖的な建築として大空間をつくるのではなく、浮いたように見える軽やかな屋根と、外と連続する開放的な全面カーテンウォールによる開放的なファサードを実現しています。

内川:オクルスとは、もともとローマのパンテオン頂部にあるトップライトのことです。ドームもパンテオンをイメージして、頂部にトップライトを設けています。


周囲の風景と調和する在り方

ドームの設計監理の前から、博覧会の会場全体計画も、日本設計が携わっていました。山口きらら博記念公園は、もともと43haという広大で平坦な埋め立て地でしたが、そこに「月の海」と呼ばれる小さな湾状の海や、その残土による「太陽の丘」など、豊かなランドスケープをつくりだしています。


「月の海」で小さなカニを見つけてはしゃぐ3人

内川:ドーム内部もレベル差があり、マウンドした周囲と連続しています。

陳:フィールドには8×30mの大型引き戸が設けられていて、イベント時に引き戸を開けて内外を連続して使用することもあるそうです。日常的にも開放していて、時には鳥が入ってくることもあるそうです!またオクルスには遮光ブラインドが付けられています。風や自然光に応じて内部空間を調節できるパッシブな建築の在り方がドームという規模でも実現できることに驚きました。

下山田:大小2つのドームの周囲を囲む大庇(バウンダリールーフ)は、構造的にはドーム構造のタガ(外周リング)の役割も果たしていますが、意匠的には縁側のような、内外を結ぶ空間をつくり出しています。


コミュニティルームのテラスより月の海を見る。


アリーナエントランス。バウンダリールーフの軒天には県産材の桧板が使われている。

内川:ドームの開放的な空間も、バウンダリールーフの在り方も、この建築が単体として建っているのではなく、周囲の公園と一体的に考えられ、地域に開かれた場所として建てられていることが分かります。

陳:日本初の超高層ビルの設計チームにより創立された日本設計は、建物の足元をいかに人や自然のための空間とするか、というのがDNAとして根付いていますが、ドーム建築にもヒューマンスケールな空間を大事にする精神が息づいていると感じました。

 

一緒に訪ねてもらいたい!山口おすすめスポット

きららドームと合わせて今回レポーター3名が訪れた、山口のおすすめスポットをご紹介します。

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2023年5月23日 特記なき撮影:日本設計広報室

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