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2021.12.10
訪ねてもらいたい─糸満市庁舎

「環境に優しい庁舎」としてのメッセージは生き続ける

糸満市庁舎は、市庁舎としては当時最大規模となる総発電量195.6KWの太陽光発電システムを設置し、日除けルーバーや昼光利用など、様々な省エネルギー対策により年間のCO2排出量を136トン削減(当時。石油換算値)した、環境建築の先駆的な事例でした。カーボンニュートラル賞など多数の賞を受賞しています。
来年で竣工20年を迎える糸満市庁舎建設に、計画立案から携わってこられた金城寛氏(当時、庁舎担当の糸満市職員。現・糸満市議会議員)にご案内いただき、入社2年目・6年目の日本設計社員3名がレポートします。


アマハジを背景にレポーターの3名。左から福田 晴也 (ライフサイエンスプロジェクト部)、倉知 寛之(関西支社)、大木 玲奈(第2環境・設備設計群)

東京が急に肌寒くなった10月末、まだ夏の雰囲気が残る沖縄を訪れました。
糸満市庁舎へは、那覇空港から車で30分ほど。途中、明治24年(1891年)頃に建てられた沖縄古民家「茶処 真壁ちなー」で昼食を食べ、糸満市庁舎へ向かいます。


「茶処 真壁ちなー」。赤瓦や雨端、一番座、二番座と呼ばれる畳敷きの続き間など、沖縄の伝統的な民家の様式が見られる、登録有形文化財。柱には戦時中の銃弾の跡も残っています。

「糸満市から次の時代の環境建築の前例を」


糸満市庁舎の堂々たる姿が見えてきました。日射と躯体への蓄熱を避けるため、南面は水平ルーバー、北面は縦ルーバー、東西は有孔PCパネル、屋上はシェルターと、全方位囲われています。

最初に目に留まる特徴的な水平ルーバーと、それを支える梁とでつくり出す高さ5層分の巨大な軒下空間は、「アマハジ」(雨端:沖縄の伝統民家に見られる軒下空間)と名付けられました。アマハジの水平ルーバーと、屋上のシェルターは強い日差しを遮るとともに、太陽光発電パネルの架台にもなっています。


太陽光パネルを載せた水平ルーバーを支える梁の長さは25m。巨大な軒下空間に圧倒されます。

福田:沖縄でよく見られる花ブロック(有孔コンクリートブロック)など、地域の風景と馴染む外観でありながら、象徴的な力強さをもっています。

倉知:東京の設計事務所が沖縄で建築をつくるにあたり、沖縄の伝統的な表現に偏りすぎない多角的な視点で設計され、その当時の先駆的な環境建築をつくろうとした姿勢を感じます。ただそのなかでもアマハジや花ブロック、コンクリート打放しの無骨な表現など、沖縄らしい伝統的なものと、現代的なデザインが組み合わされているのが面白いですね。

大木:設備は付加的な要素になることが多いなかで、太陽光パネルや日射ルーバーをデザインの主軸として使っています。それを約20年前に実現したことにまず驚きます。技術的・コスト的にも難しかったという話を伺いましたが、それでも実現することができたのは、『糸満市が次の時代の環境建築の前例をつくる』という、金城さんはじめ糸満市の方々の強い想いがあったからだと分かりました。

 

「海辺のグスク(城)」

海辺に建つ市庁舎は、「海辺のグスク(城)」をイメージし、那覇空港に発着する飛行機、漁港に着いた船、国道バイパスを通る車など、色々な風景の中で見られることを意識されました。


船をイメージした別棟の屋上デッキ。

倉知:別棟の屋上デッキは海に臨み、潮風を感じる気持ち良い場所です。ほかにも日陰となるアマハジ空間を始め、高度の高い太陽光が差し込む光庭など、庁舎内外のさまざまな場所が「沖縄らしさ」を体験させてくれます。東西は有孔PCパネル、北面は縦ルーバーと、方角で異なる外装も、機能としては各方角に応じて日射しを遮る目的ですが、内部からはそれぞれ違う景色を見せてくれます。

 

大木:東西に光庭が2つあり、執務室の奥にも自然光や通風を取り込みやすいプランです。その上で、手動ブラインドや換気窓で、ユーザー自らが環境を調節できるようになっています。


西側の光庭。市庁舎の職員の方々により育てられた植物は数も増え、今ではジャングルのよう。


東側の光庭。

福田:ここは海が近く常に潮風にさらされる、建物にとっては過酷な環境下ですが、そうした経年変化も含め、環境や時間の流れを受け入れながら自由におおらかに使われているのも印象的です。

 

環境に配慮した建築の役割として


アマハジ見上げ。斜めの軒下は太陽光パネルを載せたルーバーが互いに影を落とさないよう配置した結果でもあります。

倉知:機械や設備の寿命は建築より短いため、環境建築をどう維持させるかは設計者にとって課題です。糸満市庁舎はPCの日除けルーバーと太陽光パネルが一体となっているので、太陽光パネルの寿命がたとえ終わっても、ルーバーとしての役割が続き、建築と設備が融合した例と言えます。そして何よりこの姿自体が『環境に優しい庁舎』のメッセージとして生き続けていく。

大木: 実際、太陽光パネルの設備的な寿命は近づいているそうですが、金城さんが、教育的にも十分意味があったとおっしゃっていたのが印象的でした。
竣工以来、多くの学校から子どもたちが見学に訪れたそうです。「将来は環境を守る仕事につきたい」という感想をもらったという話も伺いました。竣工後約20年が経っても、大切な環境の学びどころになっている。環境建築は、省エネルギー量などの目に見える数値に気を取られがちですが、建物を通じていかに人々が環境について考えるきっかけとなるかといった点も大きな役割なのだと改めて感じました。

 

一緒に訪ねてもらいたい!沖縄おすすめスポット

糸満市庁舎と合わせて今回レポーター3名が訪れた、沖縄のおすすめスポットをご紹介します。

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2021年10月19日 特記なき撮影:日本設計広報室

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