レポート

としまエコミューゼタウン AACA講演報告

2016年8月22日、日本大学駿河台校舎にて日本建築美術工芸協会(AACA 岡本賢会長)2016年景観シンポジウム「池袋副都心の景観をリードする『としまエコミューゼタウン・豊島区新庁舎』の計画とデザイン」が開かれました。としまエコミューゼタウンは区有地と民間地権者の所有地を合わせた第一種市街地再開発事業として施行され、区の新庁舎の上部に民間の区分所有住宅がのった形式とこの事業の結果としての資産価値の大幅な上昇が話題になって、一般マスコミ等にも盛んに取り上げられた計画です。シンポジウムには豊島区の職員として当初から携わってきた上村彰雄庁舎運営課長、ランドスケープの設計者であるランドスケープ・プラスの平賀達也代表、外観デザイン監修者である隈研吾建築都市設計事務所の斉川拓未室長、日本設計からは当初計画時からの全体設計者である黒木正郎執行役員フェローがパネラーとして登壇しました。司会は千葉工業大学の今村創平准教授が担当されました。

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シンポジウムでは、上村課長から老朽化した区庁舎の建て替えに関してこの場所での再開発のほかに方法は考えられなかったこと、それに対していかに根気よく区民などに本事業の意味と価値を説明していったかが語られました。黒木フェローからは計画に当たって庁舎と住宅を上下に合築した一棟案の合理性にたいして、それを実現するために超えなければならなかったハードルについて紹介されました。また、平賀代表からは庁舎の屋上部分を利用した庭園は、単なる屋上緑化に留まらない地域の環境再生と次世代を担う子供たちへの環境教育の場として作られた、ということが活動の様子を交えて紹介されました。最後に斉川室長から外観デザインにあたっては、コンセプトとして「樹木のような建築」でありたいと考えた理由として大型の建築物が地域環境と共棲するすがたとして「大きな樹木」のありかたをモチーフにしたことが語られました。

各登壇者に対して司会の今村氏からは具体的に街がどう変わったのか、今回のプロジェクトを成功に導いたポイントは何だったか、また景観としてどういう考え方でこの建物を評価したらよいのか、などの質問がありました。それに対して上村課長からは、成功事例があると区民たちの見る目が変わること、区が率先して庁舎の開放、区有地や区施設の民間との協働事業を進めた結果、今後も新規のプロジェクトが続いており明らかに地域に活気が満ち始めていることが挙げられました。黒木フェローからはプロジェクトを成功に導いたのは地域住民と行政とが実に綿密な意思疎通を重ね、結果として地域の関係者の総意を得るための「合意形成のルール」が形成されたことが大きいと述べられました。景観のあり方としてのこの建物の意味については平賀代表から都市に育つ子供たちの未来の作り方として「人間しか資源のない国」「きわめて豊かな自然のある国」という両面を持つわが国の特質を生かしてひとつの形を示しえたという意見が述べられました。

シンポジウム後の懇談会では登壇者らを囲んで質疑応答や意見交換がなされましたが、足掛け12年をかけたプロジェクトへのねぎらいの言葉のみならず、建築界以外の行政・マスコミらからの注目を集めるプロジェクトとなったことへの賞賛が多かったことが印象に残ります。加えて、区と住民にとって様々な形で利益を最大化できた要因として、近年の再開発プロジェクトは早期から民間事業者に任せきりにしてしまうものが多い中、本件は事業推進に関して最終段階までいわゆるデベロッパーの力に頼らずに、自分たちにとって必要なものを自分たちで判断して決める、という姿勢を貫いたことが功を奏したことが登壇者の総意として語られていました。台風の中200人以上の聴衆を集めた熱気あるシンポジウムでした。