レポート

第6回think++ Seminar 速水亨氏講演レポート「人が育てる豊かな森林 ─ 命あふれる森の再生 ─」

日本設計では、様々な分野でご活躍の方々をお迎えして、皆さまと一緒に未来を思い描くきっかけを得る機会となるよう、年に2回のセミナー think++ Seminarを開催しています。
human & natureをテーマとする第6回think++セミナーでは、三重県で江戸時代から続く速水林業の9代目であり、日本の林業を牽引する速水亨先生をお迎えしました。速水林業は環境と地域社会に貢献する森林管理のあり方を追求し、2000 年に国際的な森林認証制度「FSC 認証」を日本で初めて取得されました。森と密接につながっていたかつての人々の暮らしから森の存在が消えつつある今、日本の森の現状、未来についてお話をいただきました。
その概要をレポートします。

 

はじめに

私は常々、林業は木の命の一瞬を使わせてもらっている産業だと思っています。日本は国土3,700万haの67%が森林で、昭和の大造林により短期間で800万haほどを植えた結果、1,000万haの人工林があります。総蓄積(山にある木の体積)は1966~2012年の46年間で2.6倍、人工林で見ると5.5倍になっています。いちばんの課題は、この資源をどう利用するかということです。
今日は、日本だけでなく世界の森林について、そしてなぜ木を使うのがよいのかという話もしたいと思っています。

 

日本の林業の現状
人工林の樹齢に対する面積を表すグラフ(1)を見ると、51年生以上の人工林の面積は1966~2012年の間に47万haから523万haに増加し、2012年では51年生以上の人工林の面積が総面積の51%を占めています。50年ほど前に比べ植林面積は約1/10になり、若い木が少ないので、将来的には高齢樹林化が問題になるだろうと予想されています。

グラフ1:人工林の齢級構成の推移 (林野庁「平成28年版 森林・林業白書」をもとに速水氏が作成)

木材需要の推移を見ると(2)、木材需要は1973年の1億2100万㎥をピークに2009年の6480万㎥の最低値まで、減少傾向にありました。1人当たりの年間の木材消費量も近年上昇傾向にあるものの、1973年のピーク時の半分ほどになっています。

 

グラフ2:木材需要の推移(出典:林野庁『木材需給表』)

グラフ3:日本と諸外国との林業施業コストの比較 (出典:『我が国林業・木材産業の今後の可能性』日本政策投資銀行発行 中国木材株式会社受領資料より制作​​)

木材の製品価格については1950~60年代は約6万円/㎥だったのが2010年頃は最低値の4万円ほどになり、その低迷期は脱したものの、製品価格から運材費や素材生産費などのコストを引いた「山元立木価格」は、諸外国に比べ日本は極端に低くなっています(3)。例えばオーストリアでは14,000円で丸太を売ると林業家の手元に9,500円ほど残るのに対し、和歌山県では12,000円で丸太を売っても、林業家の手元には1,000円ほどしか残らないのです。それは山から木を出してくる生産性の低さが原因です。機械の導入台数は進みましたが、生産性が伴っていません。製材業でも生産性が上がっていないこともあり、柱や板の製品が1万円/㎥で売れたときに30年前は2,000~3,000円ほど林業家の手元に残ったのに、今では400円です。日本の林業は今まで規模拡大を目指してきましたが、100ha以上の林地の林業所得は赤字なのが現状で、単に規模拡大を進めるだけではダメでしょう。こうした中で、近年、代々続く林業家が次々に山を手放しています。この現状を変えるためには、暫時市場に影響を与える補助金を減らし、環境と国土保全の補助金にシフトするべきです。また同時に、製材工場の合理化、機械化もより適切に進める必要があります。多くの森林所有者は森林の情報や知識を持たないまま、補助金に頼って改善を怠っているのです。そのため日本の林業が停滞していると言えます。

 

森林の機能

地下水の停滞時間は地球の平均約800年と言われています。また世界の農業は約60%が地下水に依存しています。つまり山を汚染することは、それにより地下水が汚染され、その後何百年先の水が汚染されることを意味します。
広葉樹を植えると水が増加すると言われることもありますが、水の浸透量を比較すると針葉樹と広葉樹ではほとんど変わりはありません。むしろ広葉樹林には下草が生えない場合が多いので、針葉樹でも下草を適切に生やすことで、台風などによる表土流出を防ぐことができます。
さらに木材などバイオマス燃料を利用することは、燃焼、加工、使用、廃棄という循環に更新が伴うため、地球の生態的循環の輪に人間が加わることを意味します。しかしそこには大原則があり、木材を採取した場所には再造林が絶対不可欠です。

 

限りある地球と森林認証

単に木を使えばいいというわけではなく、適切な伐採方法や山の管理が大切で、違法伐採や不適切な森林管理は森林破壊の大きな原因となり、森とともに生きる人々の生活を破壊させます。燃料として使っていた木がなくなることで燃料集めに働かなければならない子供たちが学ぶ機会を失い、貧困の連鎖を招くだけでなく、例えばアフリカ中央部では、過剰な森林伐採によって野生動物と人の接触が多発しエボラ出血熱が広がります。またパプアニューギニアでは、先住民が家や船をつくる材料として使っていた森がすべて切られてしまい、先住民の人権無視が問題になっています。違法伐採の木材にはこのようなリスクがあることを理解すべきです。そして先進国の中で、こうした危機感のない木材の利用をしている筆頭は日本であることを知る必要があります。
1993年にできた「FSC 認証」は環境と社会性、経済性のバランスをとった森林管理に与えられるもので、消費者がその認証マークの有無によって木材を選択、消費できる仕組みです。欧米では家具や建築などにFSC認証材を要求されるのが一般的ですが、日本や中国は認証を要求しないので、違法伐採や森林破壊の原因をつくりだしています。
速水林業の森林は2000年に日本ではじめてFSC認証を取得しました。森林内に243種もの植物があり、いかに多様性を確保するかを意識しています。また法隆寺の修復時に柱として使えるヒノキを育てようと試みていて、400年生のヒノキを育てる森をつくろうとしています。間伐時に森の1割を残していくことを繰り返し、300年後には400年生のヒノキが育っている計算です。

300年後、400年生の森を目指し、間伐時に森の1割を残していく (撮影:速水亨)

 

特に建築や家具の関係者は材木や森林の知識を俯瞰的に持ってほしいと思います。そして可能なら無垢材を積極的に使ってほしいし、その材がどこで育てられたものかを知ってほしい。建築は、それを使う人だけでなく、そこに関係した人全員を幸せにするものであってほしいと思います。

速水林業の森 (撮影:川廷昌弘)

 

対談 速水亨 氏×山崎暢久(日本設計 ランドスケープ土木設計部  グループ長)

山崎 林業を中心に、いろいろな分野が関わる総合学問としての面白さを感じました。2017年竣工の「赤坂インターシティAIR」では超高層の足元に多様な緑の中を歩く散策路をつくろうと計画しました。速水さんは多様性のある森をつくられていますね。
速水 森というのは木だけでなく土壌微生物も含めて、全体の命の集合で維持していくことが大事だと思っています。下草を育てることで土壌が柔らかくなり、微生物や虫、小動物が増え、全体的に生物多様性が高くなるという循環がおきます。今までの林業と変わらず草は邪魔者という考え方をしていると、新しい林業へつながるブレイクスルーにはなりません。それに多様性を理解すれば、経営的にマイナスにはならないと考えています。
都市の中で緑化する時には、経年変化を予想したうえで計画できると面白いですよね。建物が完成した時に完全な緑だけでなく、苗木から育っていくのを楽しむ場所があってもよいと思います。

 

会場からの質疑応答

会場 欧米では「FSC認証」の普及が進んでいるというお話がありましたが、なぜ日本と差があるのでしょうか。
速水 林業関係者が儲けを優先してしまうことや、日本独自の基準をつくろうとするゆえに認証の導入が遅れていること、また消費者がほとんど生産地を意識しないのも原因にあるでしょう。
会場 将来、地球規模での森林はどうなるのでしょうか。
速水 森林の減少は、地球規模では改善されているのですが、日本が木材を輸入している生産地の多くでは改善されていません。子供たちに、森林の教育をどうしていくかが大事だと思います。LEAFという森林環境教育プログラムが北欧で成功していますが、子供の時から環境を学べば、日本の未来を変える大きなエネルギーになっていくのではないでしょうか。

撮影:川廷昌弘

速水亨(はやみ とおる)
株式会社森林再生システム代表取締役
FSCジャパン副代表

1953年生まれ。これまで農林水産省林政審議会委員、環境省中央環境審議会委員、国土交通省国土審議会計画部会専門委員などを歴任。現在は三重県経営戦略会議委員座長、公益財団イオン環境財団評議員、三重県林業経営者協会会長、みえ森林・林業アカデミー特別顧問などを務める。平成30年度第57回農林水産祭天皇杯受賞。