ヒストリー

9. “建築”の未来を想う

歴史的建築物に、新たな価値を加える。

高度成長時代の日本では、規模や機能がその時代に合わなくなった建築物は、たとえそれが歴史的文化的な価値を認められたものであったとしても解体し建替えるのは仕方のないこととされていました。1960年代から90年代にかけて、戦前に建てられ戦火をくぐり抜けて来た歴史的建築物たちは都市構造更新の流れの中にそのすがたを消していきました。そこに一石を投じたのが、私たちが90年代後半に手がけた日本橋室町の「三井本館街区再開発計画」です。関東大震災後の昭和4年に建設された「三井本館」を保存し、その余剰容積を加えて隣接する街区に超高層ビルを建設する開発とを両立させたこのプロジェクトは、それまで保存か開発かの二者択一だった都市づくりの考え方から一歩踏み出し、歴史的な建築物を文化財として保存し活用することが、開発事業においても新しい価値を生み出すことができることを実証したのです。

三井本館(日本橋三井タワー建設前)
(撮影/新建築)

三井本館街区再開発計画(日本橋三井タワー)
(撮影/川澄・小林研二写真事務所)

時代の波を超えてきた建物に、あらたな役割を。

世代を超えて引き継がれてきた建築ストック(建築資産)の活用技法は、「三井本館」のような保存建築と新築の組み合わせだけではありません。今世紀に入ってからは、優れた建築物を改修して活用したり建物の用途や機能を転換し新築部分と組み合わせることで新しい生命を吹き込む建築リノベーションが活発に行われるようになってきました。私たちが手がけた愛知県の「碧南市藤井達吉現代美術館」は築後25年経って使われずにいた旧商工会議所のビルを美術館にコンバージョン(用途変更)し、環境先進都市としてのまちづくりのあり方を示しました。また滋賀県の「長浜市庁舎」は旧長浜市立病院の病棟であった建物を市庁舎として改修したうえでさらに新しい執務スペースを増築し、コスト削減と整備期間の短縮を両立しながら庁舎の機能性の飛躍的な向上に結び付けました。

碧南市藤井達吉現代美術館 改修前の商工会議所
(撮影/篠澤裕)

碧南市藤井達吉現代美術館
(撮影/篠澤裕)

長浜市庁舎 既存病院改修前
(撮影/稲住写真工房)

長浜市庁舎 既存病院改修後
(撮影/稲住写真工房)

先人たちの思いを、次世代へつなぐ。

兵庫県の「豊岡市庁舎」プロジェクトでは、築80年の旧市庁舎をそのままの状態で曳き家をし、市議会議場として活用することで市のシンボルを次世代に引き継いでいます。このように、私たちはこれまで数多くの建築ストック活用に取り組んできました。その実績の上にたち、2018年完成予定の「日本橋二丁目地区再開発」プロジェクトでは、重要文化財に指定された百貨店の建物を中心に、オフィスと商業・文化施設を集積させることで、日本橋エリアの再生と新しい賑わいの中心を創造しようとしています。優れた建築ストックを保存し、再生し、活用することは、新たな建築物を生み出すことと同等かそれ以上に創造的な仕事です。社会も建築界も成長と拡大の時代から成熟と安定の時代に移りつつあります。これまで都市を築いてきた人々の思いに今の私たちの仕事を重ね、次の世代に引き継いでいくことが求められる時代に入っているのです。そしてその思いの上に築かれる都市空間には、建物の規模や機能を超越した価値が生まれるはずです。

改修前の豊岡市庁舎
   

豊岡市庁舎
(撮影/プライズ)

日本橋二丁目地区再開発

建築のちからを、未来の都市づくりのために。

1981年に建築物の耐震性の基準が現在のものに定められてから、まもなく40年が経とうとしています。これは築40年の建物が、少なくとも耐震性の面では現在のものと同じ基準のもとにつくられているということです。このような建築物を再生し活用することは、新築するより経済的であるだけでなくその地域その場所に蓄積された価値を後世に継承していくことができる手法としてさらに活発になっていくはずです。2010年に竣工した「霞が関ビルディング」のリノベーションでは、超高層ビルを竣工時の姿のまま再生することで、その場所が近代都市東京の中心であり続けることを可能にしたものです。今後は日本の至るところで、自分たちの地域が蓄積してきた価値や独自性を未来の世代へ生かすために建物のちからを活用するプロジェクトが起こることでしょう。優れた建物にはそういうちからがあります。私たちはそのちから引き出す仕事をこれからも続けていきたいと考えています。

霞が関ビルディング リノベーション
(撮影/フォワードストローク)