ケーススタディー

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)Post COVID-19のワークライフスタイル

ワークスタイルに普遍的な一般解はありません。企業ごと時代ごとに、最適なスタイルを求め見つけて行く、動的平衡を保ちながら変遷して行くものだと考えます。この回では、ワークライフスタイルについて考察します。

1. ワークライフスタイルとは 
現在、私たちのワーク(働く)とライフ(暮らし)の関係は、ワーク&ライフのバランスを追及していた時代から、新型コロナウィルス感染拡大防止のための在宅勤務によって、ワークとライフが混然となりがちな状況を乗り越えようとしています。日本設計では1月から5か月以上に及び、全社員の原則在宅勤務を含む対応を続けました。そしていま、そこでの気付きを集め、ワークとライフにまつわるさまざまな活動に対応する場所と時間の関係を見直しながら、一貫性のある「ワークライフスタイル」として捉え、活動どうしの相乗効果を最大化する考え方の端緒に辿りつきました。私たちは、この「ワークライフスタイル」をこれからの時代のスタイルとして確立すべく、私たちの働き方から、私たちが携わってきた建築や都市の活かし方、さらには今後の建築や都市の考え方まで、それぞれの最適解を模索し始めています。これまでの実践例を、COVID-19対応の4つのフェーズ、Pre, Emergency, With, Post (新型コロナ禍発生前、緊急事態宣言下、治療法確立までの共存期、治療法確立後の安定期)に照らしてご紹介します。


2.Emergencyへの対処 ~ With COVID-19への移行 …日本設計上海現地法人の経験…
2020年1月、現地法人を置く上海では、経験のない規模の感染症リスクに直面しました。日本より2か月以上も早いタイミングでの対応となり、そこには日本国内での対策に役立つ気づきがありました。
まず在宅勤務開始のためには、サーバーの安全性やIT機器輸送時の感染リスクなど問題が山積みでした。新規プロジェクトが延期される中、進行中プロジェクトでは即座にSNSやオンライン会議による業務継続が求められ、戸惑いながらの対応となりました。この経験から日本国内の各事業所でも準備を進め、Emergencyとなった3月末には即刻、在宅勤務を軸とした具体策を打ち出すことができました。
3月に入り、中国の警戒レベルは緩和され、勤務体制の模索が始まりました。上海のオフィスビルでは、入館時の体温検査・マスク着用・入館許可証提示・健康状態(3段階)を示すQRコード提示など、義務化された厳しい管理が続きました。現地法人オフィス内での業務再開は、専門業者による全面消毒・消毒液設置・非接触体温計やマスクの常備などの準備を経て、業務シフトと共用スペースの活用による人口密度を軽減した分散配置・オンラインによるコミュニケーションを前提とした部屋間の移動制限などを導入することで、3月中にはシフト制、オフピーク通勤を開始しました。
4月には、中断していたプロジェクトが一気に再開。オンライン会議が前提のためプレゼンテーション方法も変わりました。通信事情が悪くても伝わるよう動画による計画説明に切り替え、チーム内の意思疎通のために別回線のチャットを併用しています。日本国内でWithの時期を迎える前に、上海での衛生対応や会議対応を参考にして対策を進めました。
一方、環境面で大きな課題となったのは、オフィスビルの全館空調設備はエアダクトを介した感染懸念から上海市の指導が入り停止を余儀なくされ、窓を開ける必要があったことです。そして3月には寒さ対策、5月には暑さ対策に迫られました。各季節を通じて、既往の空調システムや高層建築での換気方法に関する見直しが課題です。このシリーズ記事の第3回でも空調や換気を考察していますが、中国でも日本国内でもさらに検討を進めています。
この経験により、中国プロジェクトでは「感染症に対するBCP」というメニューが早速加わり、Post C-19の時代に向けて、世界がオフィスや働き方の見直しへと動き出したことを実感しています。

3. Pre COVID-19の知見を、Post COVID-19に応用する
…これまでのプロジェクトからのヒント…
Pre COVID-19時代のワークスタイルは、オフィスからコワーキングスペースへ、デスクからモバイルへ、そして室内から屋外へと、特定のワークプレイスから解放されつつありました。オフィス内でのフリーアドレス制も含め、このようなシェア型のワークスタイルは、感染リスクの高さからEmergencyでは敬遠され、Withの時期も毎回の消毒なしには利用しにくい状況です。しかしながら、いずれCOVID-19のワクチンや治療薬が確立されれば、状況に応じ距離を保つことができ、換気の良い屋外も選べるサードプレイスの整備は、Preの時代にも増して有効な空間づくりに成り得ます。
私たちは、Post COVID-19に向けての対策においては、AI, IoT, ビッグデータも利用しながら、オフィス専用部内の人口密度や環境の制御にとどまらず、ビルのロビーやオフィス階の共用部、屋外空間と自然環境までも積極的に活用し、より良い企業活動に資するような可変的要素のある場所や時間の使い方により「ワークライフスタイル」を確立することが重要であると考えます。
これまで日本設計が携わったプロジェクトには、働く場所の豊富な選択肢を持ち、Post COVID-19に応用することのできるエッセンスを備えたものが多くあります。
たとえば、
-  超高層オフィスビルの足元に設けた、ワーカーの憩いの場所となる静かで緑豊かな広場。
-  既存超高層オフィスのロビーに改修でビルトインした多彩な屋内外のサードプレイス。
-  巨大オフィスビル低層部で、大街区を通り抜ける空間に沿って展開する屋内サードプレイス。
-  偶発的な出会いの促進を意図して、オフィス基準階の共用部や専有部に備えた吹き抜けや階段。
-  CASBEE-SWO(Smart Wellness Office)に初認証された貸しビル内の本社オフィス。
-  セキュリティライン内の緑化されたテラスや、専有部の外側一面に広がる専用バルコニー。
これらのプロジェクトに対して、これからの時代に相応しい使い方を皆様と共に考え提案していくことも、私たちの責務であると捉えています。

4. そして、Post COVID-19 へ …新しいワークライフスタイル…
都心の周囲に郊外が広がる都市構造を、自律的な地域どうしのネットワークへと再構築できないか。オフィスに集まって定型化された作業や習慣化した会議をするのではなく、まだ見えない知(暗黙知)を発掘し発展させるにはどうしたらよいか。通勤通学などの移動手段の選択制を高め、移動時間を快適で価値あるものに高めるにはどうすればよいのか。オンとオフが共存する住空間を、どのように設計するのか。この数か月で得られた多くの気づきをもとに、従来の建築様式・都市構造やその基礎となる思想をWithの時期を通してじっくりと見直し、Postに向けて再構築する必要があります。そして私たちは、時間と場所、生活と仕事、都市と建築を、統合的な姿勢で社会やクライアントと共に考え、それぞれのワークライフスタイルを確立できる最適解を提案していきます。
COVID-19による災禍は、私たちの働き方とワークプレイスを見つめ直す機会ともなりました。創立以来連綿と続けてきたチームによる価値の共創を、このウィルスとどう付き合いながら実現していくのか。ワークライフスタイルへの気づきを、ダイナミックに変化する「チーム」単位の活動にフィットさせるワークプレイスのあり方とは。働く場所や時間の可変性・集散性を高め、暗黙知を強化するオフィス空間を、TDW(Team-Driven Workplace)というコンセプトにまとめ、時とともに深化するワークライフスタイルを確立したいと思います。今後、世界中のどこにあっても、再びパンデミックに直面しても事業継続するためには、働き方をPre COVID-19の時代に戻すのではなくオフィス環境を変えてゆかなければなりません。自ら実践し検証した考え方を、皆様への提案にも役立てていきたいと考えています。