ケーススタディー

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)空気の質を考える – 空調・換気設備の考察 –

空調設備とは、“空気調和設備”の略であり、室内空気をあらゆる面において調和させることが求められた設備です。特に人に対する健康や快適性のためのものは保健用空調と呼ばれます。今まで、空調設備は、冷房、暖房の温度調整機能を偏重する傾向が高かったのですが、新型コロナウイルスによって、“換気”や“空気質”にかかわる性能、機能も重要であることが広く認知されました。本シリーズその2で紹介したようにCOVID-19に限らず、パンデミックはおよそ10年毎に繰り返されてきました。しかし、これほど社会に影響を及ぼし、換気や空気質に関心がもたれたことはありませんでした。
この点を踏まえ、Post COVID-19において、多くの時間を過ごすオフィスや公共空間の空調設備に関わる変容(新常態)を考察したいと思います。

1.新型コロナウイルスに対する空調設備運用の考察
新型コロナウイルス感染症に対する空調設備の運用対応策(医療施設以外)が、厚生労働省※1や日本建築学会※2、空気調和衛生工学会※3、建築設備技術者協会※4などから公表されており、以下に概要を抜粋します。
(1)「換気」とは、室内の空気と外気を交換すること。「換気回数」は、1時間に室容積の何倍の外気を取り⼊れるか?という指標。室内空気を循環させることは換気に相当しない。
(2) 3密の1つ「換気の悪い密閉空間」は、建築物衛生法の基準(一人あたりの必要換気量30m3毎時)を満たせば該当しない。ただし、この基準は感染症防止として一定の合理性を有しているが、感染のメカニズムが⼗分に明らかになっておらず、感染症を完全に予防できるとは言えない。
(3) 推奨される空調設備の運用(中央空調設備方式の場合)
・空調設備における室内からの循環量は可能な限り減らし,できるだけ全外気運転に近い運転とする。
・省エネルギー技術をうまく活用し、取入れ外気量を増やす調整をする。(例:室内CO2濃度による外気量制御では設定値を最低値に下げて機能を停止させる。中間期の冷涼な外気を活用する外気冷房制御があれば、許可条件を緩和させ導入外気量を増加させる。室内空気からの熱回収を意図した全熱交換器制御では、バイパス回路など空気抵抗の低いモードで運用し、外気導入量を増やすなど。)
・自然換気用の開口部がある場合、空調設備など機械換気とあわせて開口部を開放するとよい。その際、排気口の確保など、排気機能もあわせて確保すること。(室容積の約3 倍の外気を導入すると、室内空気の95%が入れ替わり、外気とほぼ同じ空気清浄度となる。)

新型コロナウイルス対策では、外気の室内供給システムにおいて考慮すべき点が多くあります。“量はより多く”、“湿度は高すぎず、低すぎず”、“より清浄度を高く”など量と質の双方が求められます。

2.室内への外気供給方法の考察
Post COVID-19では、空調設備おける室内への外気供給方法がポイントになるのではと考えています。しかし、日本の気候は気温較差が大きく、湿度の面においても夏季は除湿、冬季は加湿と相反する機能を必要とする独特のものです。その外気を大量に取り入れるには、今まで以上の工夫が求められるでしょう。そのヒントになるこれまで実践してきた日本設計の取り組みを紹介します。
一般的なオフィスでは、外気と室内空気を混合した空調機にて室内空調を行いますが、赤坂インターシティ AIRでは、外調機(外気のみを専用に処理する空調機)を設置し、空調された外気を室内まで直接、供給できるシステムとなっています。会議室など密集場所が室内に計画された際、その室に必要な換気量(外気量)を供給できるように意図したものです。このようなシステムであれば、室内空気を循環させず、全外気で室内換気が可能となります。たとえ会議室であっても「換気の悪い密閉空間」を回避することができます。
また、この外調機には、室内空気から熱回収する全熱交換器が組み込まれ、さらに熱製造効率が高い中温冷水を利用し、省エネルギーでありながら除湿、加湿の機能を十分に確保しています。
このような外気供給システムは、SDGsの視点においてもゴール№3、№7、№11など多目的かつ同時に寄与します。


3.空気質の考察

換気の性能は、換気回数と換気効率で評価します。いくら多くの新鮮な外気が供給されても、室内に行きわたらない計画では、換気効率が悪いことになります。新型コロナウイルス対策の視点において、室内全般の清浄度化を目的とした換気では新鮮な空気の入口と出口を適切に離し、室内汚染物質の発生位置を排気口近くにするのが効果的 です。一方、新鮮な外気は、人の活性度や知的生産性にも影響を及ぼすことが言われております。外気を室内の空気と混合させず、より効率的に人の呼吸する空気として供給することができれば、室内感染のリスク低減に寄与します。これを目的にしたものにパーソナル空調があります。座席近傍から外気を供給すれば、かなり高い効率で外気を呼吸域に到達させることができることを検証した結果を以下に示します。実はパーソナル空調は、1970年頃から関連研究が発表されていますが、1997年のH5N1亜型鳥インフルエンザや2001年のH1N2亜型に属するインフルエンザ流行の際には、論文数や採用事例が増加するなど換気特性の高品質化として注目される空調システムです。
このほかにも、健康に配慮した空調として天井を水配管で冷房、暖房する放射空調があります。冷暖房に空気循環を要しないため、気流感のない静穏環境であり、快適性の向上が期待されるシステムです。感染防止の視点でも放射空調にも注目が集まるかもしれません。
新型コロナウイルス対策は、感染防止から保健衛生性能の確保と同時に空気質の価値という視点で空調設備の再考をもたらしました。空調設備がもたらすコベネフィットとして、これからも空気の“質”を考察していきます。


4.これからの空調設備・室内環境
Post COVID-19は、BCP(Business Continuity Plan)など想定すべきリスクにパンデミックが再注目されます。感染防止の視点では外気の積極導入が推奨されましたが、PM2.5や花粉飛散の季節や、真夏・真冬では積極的外気導入ばかりではいられません。「気密と通風」をはじめ、「断熱と採熱」、「日常と非常」など、空調設備においては、相反する機能への考察が常に求められます。先が読めない「VUCA Volatility、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の時代」では、より一層、多目的、多要素を考慮しなければならず、様々な「バランス」、「兼用」、「可変」などを有するシステムで冗長性、受容力を備えておくことが重要だと考えます。
COVID-19によって、多くの方が在宅勤務を経験しました。IT環境がどこでも業務を可能にした今、オフィスに求める価値がますます問われるでしょう。オフィスという場所に意味があり、それに応えられるオフィスの環境を有していることが必要になります。次回はPOST COVID-19 のワークライフスタイルについて考察します。

参考文献
※1 厚生労働省 商業施設等における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000616069.pdf(2020/3/30)
※2 公益社団法人 空気調和・衛生工学会
新型コロナウイルス感染症制御における「換気」に関して「換気」に関するQ&A
http://www.shasej.org/recommendation/shase_COVID_ventilizationQ&A.pdf (2020/3/30)
※3 公益社団法人 空気調和・衛生工学会
新型コロナウイルス感染対策としての空調設備を中心とした設備の運用について
http://www.shasej.org/recommendation/Operation_of_air-conditioning_equipment_and_other_facilities20200407.pdf (2020/4/8)
※4 一般社団法人 建築設備技術者協会 JABMEEからの新型コロナウイルス対策の提案
https://www.jabmee.or.jp/information-covid19/ (2020/3/26)
※5 Arsen K. Melikov, Radim Cermak, Milan Majer : Personalized Ventilation :evaluation of different air terminal devices, Energy and Buildings, pp. 829-836, 2002.
※6 Radim Cermak, Milan Majer, Arsen K. Melikov : Measurements and Prediction of Inhaled Air Quality With Personalized Ventilation, Indoor Air, 2002.
※7 T. Akimoto, S. Tanabe, T. Yanai, and M. Sasaki,Thermal Comfort and Productivity — Evaluation of Workplace Environment in a Task Conditioned Office,Building and Environment, Vol.45, Issue 1, pp.45-50, 2010.1