ケーススタディー

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)- 医療施設と設備計画 –

現在、猛威を振るっている新型コロナウイルスのように、これほど広範に感染症への対応が求められたことは近年の日本ではありませんでした。しかし、世界に目を向けてみると東南アジアでは2003年のSARS、中東諸国については2012年のMERS等ウイルスの拡散による大規模な感染症対策は10年単位程度で起きています。 日本設計では、医療施設における環境・衛生面の設備計画のさまざまな取り組みを実践してきました。この知見や蓄積した技術を生かし、医療施設やそのほかの施設の設計に今後も発展させていくことができると考えています。

医療施設の設計において感染防止に配慮した計画を行うためには、感染経路を踏まえた効果的な対策を検討することが重要な課題と言えます。
感染経路は以下の伝搬方法※1が考えられます。
1.接触感染-感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手で周りの物に触れるとウイルスが着く。被感染者がそれを触るとウイルスが手に付着し、その手で口や鼻を触ると粘膜から感染する。
2.飛沫感染-病原体を含んだ大きな粒子(5μmより大きい飛沫)が飛散し、他の人の鼻や口の粘膜あるいは結膜に接触することにより感染する。
3.空気感染―病原体を含む小さな粒子(5μm以下の飛沫核)が拡散され、これを吸い込むことによる感染経路を指す。飛沫核は空気中に浮遊するため、この除去には特殊な換気(陰圧室等)もしくはフィルターが必要になる。
4.その他―経皮感染、母子感染、血液感染(交差感染)等
※飛沫感染と空気感染の中間的な感染として、エアロゾル感染を提唱している説もある。

新型コロナウイルス は、感染経路となる「接触」「飛沫」「空気」の3種類のうち、基本的には「接触」、「飛沫」 で広がるものと理解されており、気道分泌物および糞便から分離されるとしています。※2
空気感染は起きていないと考えられていますが、閉鎖した空間・近距離での多人数の会話等により、感染リスクが高まると言われており※3※ 4、要因の一つである「換気の悪い密閉空間」を改善する換気の方法も厚生労働省から提言されています。※5  
更に、日本環境感染学会では、感染確定例や疑い例の患者さんの病院における個室隔離方法として、「陰圧室での対応が難しい場合は、通常の個室で管理し室内の換気を適切に行うこと」、「換気の回数は少なくとも6回/時以上⾏うことが望ましい」とされており※2、換気設備の重要性が示されています。

医療施設設計での実践例
1.接触感染対策としての衛生器具の選定と開発
医療従事者が使用する手洗器は周囲への水撥ねが少なくなるようにボウル縁が高くなっているもの、また接触のない自動水栓や菌の発生を防ぐオーバーフロー口のない器具とするなど、衛生管理が行いやすい器具を選定します。また、患者の採尿の手間を省きながら接触が少なくなり、蓄尿器や自動尿量測定器の補完となる尿量測定大便器の開発にも参画しています。
2.病室の圧力を制御する空調システムの計画
第一種感染症病室では空気感染を想定した病室として、病室内の陰圧化が求められます。また、一般病院でも状況に応じて、陰圧と等圧を切り替えることができる病室が求められる場合もあります。
各室間の圧力を計測しながら、適正な圧を保つように空調機や排気ファンなどをコントロールするPCD(Pressure Control Damper)方式は、陰圧化を実現することができる技術です。
設計事例として、500床クラスの病院の一般病棟を圧力可変とすることで、パンデミック時には感染症患者収容に備えたPCD方式への改修計画をご紹介します。通常時は、病室~廊下は等圧で運用し、パンデミック時には、病室の陰圧化に加え、病棟全体を他エリアから陰圧に保てるように空調の制御を切り替えることができます。排気はHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルターによるろ過後に放出します。この時の病室換気回数(排気量)は6回/h以上としています。
3.空気質を向上させるクリーン化システムの開発事例
空調機のチャンバー部分にUVGI、TMiPによるクリーン化システムを導入することで、空調システムにおけるウイルスの除去率を高め、積極的に室内の空気質向上を行う技術です。メーカーとの共同開発や大学との実証実験を行い、効果を検証しています。
① UVGI(Ultraviolet Germicidal Irradiation)とは紫外線殺菌灯を空調に利用したシステムで、米国では多くの実績があります。米国のCDC(Centers for Disease Control and Prevention:疾病対策センター)のガイドライン※4でも医療施設において紫外線殺菌の活用を薦めています。

②TMiP(Titanium Mesh Impregnated Photocatalyst)とは光触媒を特殊加工したアナターゼ型酸化チタン板に担持されたメッシュフィルタです。多孔構造で軽く柔らかいため形状加工が行いやすい特徴があります。紫外線の殺菌灯と組み合わせることで、殺菌効果と脱臭効果が得られます。


参考文献
※1 厚生労働省 医療施設等における感染対策ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/08-06-04.pdf (2020/5/19)
※2 日本環境感染学会 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第2 版改訂版 (ver.2.1)
http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_taioguide2.1.pdf (2020/5/19)
※3  厚生労働省 新型コロナウイルスを防ぐには
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000599643.pdf (2020/5/19)
※4  厚生労働省 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第1版
https://www.mhlw.go.jp/content/000609467.pdf (2020/5/19)
※5  厚生労働省 「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf (2020/5/19)