ケーススタディー

復旧工事と地域経済の活性化を両立するために──熊本城復旧基本計画策定支援業務

2016年4月14日21:26/4月16日1:25

熊本県益城町を震源とする最大震度7を観測した一連の地震が熊本県全域を襲いました。重要文化財建造物は倒壊2棟を含む13棟が被災、特別史跡熊本城跡として重要な歴史的価値を持つ石垣は、全973面・約79,000㎡のうち30%弱が被災、10%強は崩落という甚大な被害を受けました。過去にも複数回の地震に遭いながらも復旧を遂げてきた特別史跡熊本城跡ですが、今回の大地震により改めて復旧に立ち向かうことになったのです。震災後さらなる崩壊の危険性がある建造物や石垣は速やかに安全対策工事が行われ建造物の解体保存工事も進められた一方、全体で20数万個からなる石垣は、その復旧には一体どれだけの時間を要するかは震災直後の状況では誰も把握できませんでした。管理を行う熊本城総合事務所も、自らの事務所が地震による大きな被害を受け、建物からの避難を余儀なくされる困難な状況の中、早急に復旧基本方針が策定されました。

総合設計事務所として貢献できることは何か

建造物も石垣も、現代の建設プロジェクトを専門とする私たちにとっては専門外の領域であり、日本設計が保有する各種技術ノウハウを生かすことは一見するとないと考えられました。しかし、熊本市から発表された本業務のプロポーザルの業務仕様をつぶさに読むと、私たちのような総合設計事務所に求められているのは歴史的建造物の知識や業務経験だけではなく、日本を代表する文化財の再構築マネジメントプログラムの能力であると分かりました。崩壊した建造物や石垣を一つ一つ元に戻すこととは、一つ一つの要素を辛抱強く組み合わせてひとつの姿を作り上げるという、これまで培ったプロジェクトマネジメント能力そのものであり、多数の関係者の専門的知見をまとめ上げて復旧に向かうために、私たちのこれまでの知見を十二分に生かすことができる業務と考えました。

関係者相関図

 

地域経済の活性化にもつながる復旧基本計画を

復旧基本方針策定の時点では、基本計画に基づく復旧はおおむね20年と設定されていました。日本設計も都心部における大規模再開発では組合設立から竣工まで20年以上かかるプロジェクトの経験はあるものの、今回は20年という超長期の復旧工事現場の運営を計画するにあたり、通常業務とは異なる時間軸を意識する必要がありました。復旧基本計画検討の中盤にさしかかったころ、復旧工事計画の策定は順調に進むものの、一般来訪者向けに公開できる範囲が長期間にわたりなかなか広がらないという問題を抱えました。文化財としての価値を保全するための工事を的確に行うという考えのみを貫くのであれば、公園を閉じた状況で復旧工事に集中するという手法が考えられました。一方で熊本城は地域のシンボルであり国内外から多くの観光客を引き付ける魅力ある観光資源で、地域経済の活性化にとっても一般来訪者向けに公開できる範囲を早期に拡充することは大変重要な課題でした。私たちは、文化財の価値を保全し復旧工事を安全に行いながら、一般来訪者への公開範囲を飛躍的に早めるために見学デッキという提案を行い、熊本市や関係機関と協議を行うなかで、仮設見学通路という構想が生み出されました。工事動線と公開動線の錯綜を避けた仮設見学通路は、20年にわたる復旧工事そのものをみせることによる新たな観光資源の開拓となり、地域経済の活性化にもつながる施策の提案を行うことができました。

計画検討フロー図

熊本城仮設見学通路ルート図