ケーススタディー

持続的な地域観光振興に向けたファーストステップ──秋吉台地域景観・施設整備基本計画

従来型観光地が直面する課題

近年、観光振興は日本の重要政策として位置付けられていますが、観光客は東京や京都などの主要地域に集中しており、地域観光資源の活用が遅れています。とりわけ従来型の国内団体客により繁栄した観光地は、観光スタイルの変化などにより観光客が減少の一途を辿っており、大きな課題となっています。
山口県美祢市の秋吉台地域は日本最大級のカルスト台地で、特別天然記念物・国定公園の秋吉台と、日本屈指の大鍾乳洞である特別天然記念物秋芳洞を有する古くから著名な観光地です。しかし、秋芳洞の入洞者数は40年余にわたり減少の一途を辿っています。さらに約90棟もの老朽化した市保有の観光関連施設(以下、対象施設群)、空き店舗などが自然景観を阻害しており、行政としてまず公共施設の整備に着手する必要がありました。

元データ出典:美祢市観光商工部観光総務課

左:特別天然記念物・国定公園の秋吉台 右:特別天然記念物の秋芳洞

課題の再設定と異業種協働による取り組み

対象施設群の整備優先順位と、施設と景観の整備方針を定めるため、市は「秋吉台地域景観・施設整備基本計画策定業務」を平成30年度にプロポーザルにて公募、日本設計が受託しました。検討の一部を博報堂・博報堂DYメディアパートナーズと協働し、計画策定を行いました。
取り組み方針として、観光振興こそが市の本質的な課題であることを再設定し、観光振興につながる施設整備のファーストステップとして本計画を位置付けました。
観光関連施設は観光振興のためにあるものであり、観光客にとって需要のある既存施設を把握した上、将来における地域の全体像を検討する必要があります。観光客視点でのニーズを捉えるため、建築・都市計画観点の検討に加え、マーケティングで用いる検討も取り入れることとしました。

計画検討フロー

観光施設に適した独自指標による施設評価と整備方針の策定

観光振興につながる施設整備計画をたてる上では、観光施設の価値を適正に評価する必要があります。老朽化調査を中心とした従来型の方法で施設整備優先順位を定めるのではなく、観光客視点の評価を加えたソフト・ハード9項目から成る独自の指標を構築し、観光施設に適した施設評価を行いました。観光客視点の評価には、定量調査とスマートフォンの位置情報データを活用した観光客の行動実態調査結果を組み入れました。
さらに、秋吉台地域観光の向かうべき姿としての観光ビジョンを定義した上、建築の改修、建替え、統廃合等のハード整備と、用途や体験コンテンツ、プロモーションなどのソフトの整備方針を導きました。

観光施設に適した独自施設評価

左から、位置情報データを活用した観光客実態調査;GISを活用した敷地情報の整理;施設評価を盛り込んだエリアシートの作成;ソフト・ハード両視点による将来像の検討

縮小時代における地域観光振興・ストックマネジメントへの展望

本プロジェクトの成果は、観光地ならではのストック評価として、観光客視点での評価項目も加えたことで、施設の実態や、需要性を含む存在価値を多角的に捉えることができたことにあります。また、施設評価結果を踏まえた2軸分析により、施設整備方針の策定に至るプロセスを明瞭にすることができました。
既存施設の整備をするうえで、施設をとりまくステークホルダーの合意形成がハードルとなることが多くありますが、実態を捉えた施設評価手法、明瞭なプロセスによる整備方針導出手法は、合意形成を円滑化するツールとして役立ちました。今後も多量のストックを複数エリアにまたいで保有する自治体や企業体に対して展開できる可能性があります。
縮小時代が予想されるなか、本業務における取り組みが、地域観光振興に向けたまちづくりや、ストックマネジメントへの一助となればと思います。